質問#7 「予行練習」

グラウンドには、会場設営をしている生徒会の人、さっきまで練習していた綱引きの人、応援練習をしている人など、全校生徒ではないが、多くの人がいた。


「おー。いよいよ明後日って感じだ」


永仁が手に軍手をつけながら言う。


「騎馬戦は団長が言った作戦通りにね」


賢は、体操着とその下に着ていたシャツを脱いでいる。


「えっちょ何脱いでんの」


僕は、とっさに目線を空に向けた。


賢がキョトンとする。


「騎手の人は上裸だよ」


永仁はニヤニヤしながら和に言う。


「練習始まるよ」


賢はそう言って軍手をしっかり手につける。



僕の目に映るのは、相手の騎馬━━ではなく、賢の背中。


6月中旬、梅雨の合間に見える日の光が上裸の体に当たって少し暖かい。


騎馬戦の予行練習が始まった。


団長の騎馬の後ろから、僕の騎馬は飛び出す。


相手の軍も、数騎が飛び出てきていたが、僕の騎馬を見て、一斉に僕たちを追い始める。


作戦通りだ。僕は3騎に追われながらも、体をうまくひねり、頭のハチマキを守り続ける。


僕の目は日光の反射か、興奮か、輝いて見えた。


相手の大将を追う僕を追う相手の騎馬。


軽快に追いながら、逃げ回っていた僕だったが、急に視界がぼやけて見えた。


僕は辺りを見渡したが何も見えなかった。


「和!来てるよ!」


相手の手が僕のハチマキに伸びてきていた。


「ちょっと和。大丈夫?」


はっとしたときには、目の前にハチマキを2本持った賢がいた。


「ほら立ち上がって」


賢を支えながら永仁が言う。


賢の騎馬は、相手の騎馬へ向かって行った。


空は、厚い雲で覆われ、日の光はすっかり隠れてしまった。


僕は次の瞬間反撃に出た。


逃げてばかりの僕の様子を見て油断していたのか、相手は体制を大きく崩した。


僕は自分の騎馬が崩れるギリギリまで手を伸ばし、相手のハチマキを掴み取った。


その瞬間、目の前が真っ白になった。


何も見えない。周りの音だけ聞こえる。


放送で先生を呼ぶ声、観衆のざわめく声、そしてもう一つ、賢の声が聞こえかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る