質問#5 「質問と気づき」
体育祭の準備期間に中間考査があった。
最初のテストだからか科目数と範囲は少ないものの、評定には大きく影響する。
僕は帰ってから勉強して集中できた試しがないのでいつも放課後に高校近くにある公共施設の市民ラウンジで勉強をしていた。
僕は勉強は苦手でも嫌いでもなかったので中学校ではそこそこの成績を取っていたし、だからこの高校にも入学できた。
けれど僕はそれに目的のようなものがなく、ここ最近は勉強を始めてもすぐに手が止まってしまう。
僕の学校は進学校で七割の生徒が大学に進学する。
僕が今勉強をして大学に行くのは許されるのか、そもそも僕が大学に行ったところで目的もないし、確かに大学を卒業しておいたほうが就職や、色々その後の人生に有利かもしれないけれど有利になったところで、と思ってしまう。
僕はため息をつき、席を立って駅へ向かった。
さらっとまた定期券をお願いしないと、と思いながら駅前の塾を通り過ぎようとした。
すると塾の中から賢が出てきた。
「賢?」
僕が目を丸くすると賢も目を丸くした。
「賢って塾に行ってるの」
僕がそう質問すると賢は
「言わなかったっけ。ここの塾に通ってるよ」
と答えた。
目の前にある塾の窓には大学進学実績の貼り紙がある。
「賢。ちょっと駅まで一緒に帰らない」
「いいよ」
僕と賢は一緒に駅に向かった。
5月下旬。梅雨入り前の初夏の夜はまだ肌寒い。
「寒いね」
「そうだね」
僕は賢に質問した。
「賢はなんで勉強頑張ってるの」
賢は不思議な顔をしたが僕の顔を見て答えを言った。
「大学に合格するためかな」
「合格してどうするの」
食い気味に質問を重ねて来た僕に対して真面目な顔で賢は答えた。
「大学生生活を送る。そして就職してお金を貯めるかな」
「何のために貯めるの」
質問をしていくたびに下を向いていく僕を見たのか、賢は
「どうしたの」
と聞いてきた。
「賢は凄い人だね」
賢は僕とは正反対だ。
僕が持っていないものをたくさん持っていた。
だから、僕は賢がどんな人間なのかが気になる。
「ごめん賢暗くてつまんなかったよね」
「そんなことないよ。またね」
賢は自分の家に帰っていった。
僕は電車の中で賢のことを考えながら揺られていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます