質問#3 「宗介」

ゴールデンウィークが始まった。


この前の地区大会で賢のペアと三年生はみんな県大会出場の枠を勝ち取っていた。


今日はその賢と先輩達の応援だ。


会場までは電車で1時間半。


僕は隣に座っている同じ一年生の宗介に話しかけた。


「会場遠いね。そういえば宗介は地区大会どうだった」


宗介は少し顔をしかめて答えた。


「2回戦で負けた」


僕は宗介の顔を見て慌てて話題を変えた。


「賢ってほんと凄いよね。まだ一年生なのに」


宗介は大きく顔をしかめて口を開いた。


「俺の方がうまいもん」


少し沈黙が生まれた。


僕から口を開いて話を聞くと、宗介は中学の時大会でいつも2位だったらしい。


表彰台の隣には一位の賢がいつも立っていたと言う。


僕は宗介の顔を見た瞬間に体が固まったが、宗介の頬を膨らませた顔を見て、


「また次頑張ろうね」


とちょっとだけ賢みたいな口調で声をかけた。


尊敬している人の口調を少し真似たくなったのだ。


けれど宗介はうんともすんとも言わず、目を細めながらこっちを見てきた。


「なに賢の真似してんの」


僕はビクッとした。


「えっ、そんなことないけど」


僕は目を逸らした。


「さっきも賢が凄いやらなんやら話してたけど賢と仲良いの」


そう聞かれた僕は、さっきまではたまたま賢と口調が似た体でいたが


「まあね」となぜかちょっぴり誇らしげに答えてしまっていた。


「じゃあ賢の好きな食べ物は」


「え知らない教えて」


賢のことをよく知っている体だったのに僕はまた態度を変えた。何だろう。好きな食べ物。


「ゼリーだよ」


宗介はそう答えた。


真面目で堅いイメージの賢の好きな食べ物はゼリー。


 ゼリーか……なんか、可愛いな


と内心で思ってしまい、慌てて頭を振る。


その後僕たちは会場に着いたが先輩達は負け、この大会が引退試合となった。


ずっと勝ち続けられる人なんていないけれど、賢は関係なく前進し続ける人なのだろう。


僕はこの始まったばかりの部活でそう感じていた。

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