前進中の君と左折中の僕

1章

質問 「質問」

僕は彼を賢と呼んでいた。


初め、高校に入学してなんて呼べばいいかわからず、試しにいろんな呼び方で読んでいた。


というのは建前でただ単純に名前が覚えられなかった。


彼の賢という名前の賢という字はどこか知的なイメージがあって、彼の雰囲気によく合ってると思い、覚えやすかった。


僕は成績は真ん中、スポーツも普通くらいの面白みのない人間だった。


テストの答案を返された時、僕の名前の横にはいつも平均点ぎりぎりの数字が並んでいたし、

体育祭でも、リレーのメンバーに選ばれることは一度もなかった。


一応、いつも一生懸命だねと褒められることはあるが、それは僕からすると褒めるところのない平凡な子と言われているような気がして素直に喜べなかった。


賢と僕は高校の部活動体験の時に初めて喋った。


中学の時からお互いテニスをしていて、僕は賢の実力を知っていた。


そんな中で僕は部活の体験として一緒に打ち合った賢に、


「賢はすごいよね。僕には出来ないよ」


と不細工な顔で卑屈を言った。


そんな僕とは対照的に賢は優しい笑顔で


「そんなことないよ。これから頑張ろうね」


と僕に答えてくれた。


僕は劣等感と同時に、どうしようもなく彼に引き寄せられていた。


その後、学校ではテストがあった。


入学した学校は進学校だったので、春に合格発表が出るや否や、すぐに春休みの課題と言って生徒たちに大量のプリントと教材を配った。


しっかり勉強してきたのかという確認も兼ねてなのだろう。


僕の点数は絶望的だった。何十点も平均点より低い。


僕は放課後の部活で賢テストの点数を聞いてみた。スポーツができるなら勉強はそこまでだろう。


僕は勝手にそう思っていたが賢の口からは予想外の点数が出てきた。


「100点だったよ」


その言葉を聞いた瞬間、僕の心に重たい石が落ちた気がした。

部活のラケットよりも、テスト用紙よりも、賢との間にある厚い壁の方がずっと大きく見えた。


けれどこの前の賢のあの顔を思い出して僕は勢いよく賢に詰め寄った。


「いつもどれくらい勉強しているの。あとどういう風に勉強しているの」


僕はまだ喋り始めてから1週間も経たない友達に踏み込み過ぎたと思い、自分の握っているラケットに目を向けた。


けれど賢は思ったよりも優しく、


「普通に家でやってるよ」


と僕に答えてくれた。


その何気ない言葉が、僕には遠い世界のことのように聞こえた。

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