第27話 仲直りしたい!

 現在日時7月の22日午後4時32分。

 結論から言うと、僕は旅行に行っていない。

 陽七海たちがどうなっているかも知らない。

 陵さんとも連絡を取っていない。


「(ピンポーン)」


 インターホンが鳴る。

 僕は出ない。

 誰であっても会いたくない。


「あけるよ…」


 鍵の施錠をしていなかったのは痛恨のミスだった。


 今思うと、それは誰かにこじ開けてほしかったかのように思う。



 ◇



「お茶をだせー」


 来たのは八咫アイカだった。

 見た目はロリ少女だが、私服はそれを無理やりカバーするかのように大人な服装だった。


「なんで僕の家を知ってる」

「ハナちゃんに教えてもらった。」

「そうか」


 僕はベッドからのそのそ出没し、冷蔵庫からお茶を出す。

 冷蔵庫の中は賞味期限切れのプリンしかなかった。


「バイトの帰りに寄ってみようかなって思って」

「そうか」


 こいつは僕がやらかしたことを知っているのだろうか。

 ヒナミと険悪な状態なのを知っているのだろうか。


 僕は恐れ多く、それが聞けなかった。


「…悪い、何も出すものがない」

「そう思って、アイカ水筒もってきた」


 蓋がコップになるタイプの水筒に麦茶を入れ飲むアイカ。

 手は小さく、一口も小さい。

 少しの沈黙の後、

「プハッ」

 と一気飲みしたアイカが口を開く。


「なんで行かなかったの」


 主語と述語がない。

 それは旅行のことか、それともヒナミを追いかけなかったことか。

 それとも家にヒナミがいないと思いながらも結局外にでなかったことだろうか。

 僕にはわからない。

 わからないが、全ての問は同じ答えになる。


「…さあ」


 沈黙。

 僕はヒナミがおいて行った鏡を見て、風呂に入らなければと思いもしたが、もう友達がいなくなったので、誰も気にしないのかと嫌な気持ちにもなった。

 最初からいなかったのに。


「アイカ、カゲに頼みある」


 いつから僕を「カゲ」なんて呼ぶようになったのか。


「なにさ」

「…ヒナミちゃんを許してほしい」


 アイカから出た頼みは僕が想像しているものとは程遠かった。



 ◇



「え?」


 拍子抜け。も、いいところだった。

 意味が分からない。アイカは何があったか理解できていないらしい。

 その誤解を解かせるために説明するのも億劫だ。

 それが狙いかもしれない。


「誤解してると思うが、 こうなってしまった原因は僕にあって…」

「してないよ。アイカ、ヒナちゃんから聞いたもん。」

「聞いたうえで?」

「うん。そうだよ。」

「ヒナミはどんな感じだったんだ」

「もうギャン泣き。一日中電話してた。」

「…そうなんだ」


 ヒナミが泣いていたことにも驚いたが、ここまでアイカとヒナミの仲がいいことに驚いた。

 まあ、バイトも一緒だし仲も深まるか。

 …嫉妬はしていない。


「その後もね、カゲが電話に出ないって。」

「あー」


 一時の感情で、スマートフォンを捨ててしまったのだ。


「じゃあ家に行けばって言ったけど、それは嫌だっていうから。アイカが来たってわけよ」


 アイカは『で、俺が生まれたってわけ』のパロディをした。

 こんな重い回なのに。


「カゲは仲直りしたいの。?」

「うん」

「じゃあ電話…はないんだっけ」

「うん」

「じゃあ…」


 アイカの頭上の電球が光る。


「あ、じゃあ家行こっか。」

「誰の?」

「ヒナミの」

「工事してるんじゃないのか?」

「……終わったんじゃない?」

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