THE FIRST CONTACT


「早川葵、目を開け」

 

自分の名を呼ぶ声が呼び水となり葵は深い眠りから目覚めた。

仰向けになって倒れている様で何処までも澄んだ青空が広がっている。

身体を起こそうと力を入れたが葵の体は一切の反応を示さずびくともしなかった。

ふと自分の頭の上に影が重なっている事に気づき、酷く重たい首を動かして影の主を捉えようとした。

全裸の少女が仁王立ちしていた。

 

…どう言う状況…?

 

説明すると長くなる。

 

頭の中で思った事に返事があった。男とも女とも取れない様な機械的な声だ。

葵は酷く混乱し首を左右に振って声の主の姿を探した。此処は空き地だと言う事しか分からなかった。

 

「返事を返したのは私だ。」

 

先程の声とは違う可愛らしい少女の声で答えが示された。そんな馬鹿なと思ったが他に人影はない。これが夢でないのならそれが事実なのだと受け入れる他なかった。

 

なら、貴方は誰なの?

 

この姿に見覚えはないのか。

 

葵は心の中で首を捻り記憶の中からその姿を探した。そう言えば誰かに似ている様な…

瞬間、葵に脳裏に衝撃が走った。

 

私だ!幼い頃の私の姿だ!?

 

そうだ。この惑星上で活動するにあたり、君の記憶の中からかつての君自身の姿をコピーさせてもらった。

 

どう言う事?貴方は一体…

 

言葉で説明するのは面倒だ。イメージを送ろう。

 

幼き頃の葵の姿をした少女は葵に近づき、葵の額に手のひらをかざした。

葵の脳内に膨大な情報が流れ出し、葵はその全てを咀嚼するのに苦労した。

脳内に溢れ出した情報によると、この少女は葵が吹き飛ばされた要因である巨人の仮初の姿であると言う。

そして葵は巨人の降着の衝撃に巻き込まれ、全身を強打し死亡していたが、巨人が自身の命を分割し葵に分け与えた事でこうして黄泉帰ったと言う事だった。

 

…つまり貴方は宇宙人か何かなの?それとも神?

 

その二つの概念に大きな違いは無い…君達は自分が信じたいものを信じれば良いのだ。

 

少女は表情を一切動かさずその姿に似合わぬ哲学的な事を言った。

 

それよりそろそろ動ける様になったのでは無いか?

 

確かに体に力を込めると反応があった。葵は何年も寝たきりになっていた老人の様に多大な苦労と時間をかけてゆっくり立ち上がった。

立ち上がってみると少女の身長は葵の背丈の半分を僅かに超える程度だった。先程まではもっと大きい様に感じていたのだが。

 

「で、何で裸なの?」

 

「生身の身体を構成する事は難しくは無いが、無から衣服を生み出すのは難しい…そもそも我々は元々衣服を必要としないのだ。」

 

とりあえず早急に彼女…かどうかは分からないがもう一人の自分用の衣類を調達する必要がある。

 

「とりあえず誰かに聞かれたら、シャワー浴びてたけど慌てて飛び出したって事にしましょう。」

 

「委細了解した。」

 

やはり見た目よりも遥かに大人びて見える。精神的に成熟した幼き自分の姿をした者とコミニュケーションをとっている。

異様な光景だが不思議な事に違和感は全く無かった。

葵はなんだか姉妹ができた様な気がした。

 

「あと、貴方は私の妹って事で。」

 

「名前はどうする。」

 

「貴方の名前は何て言うの?」

 

「我々の言語はこの星の住人の声帯では発音出来ない。無理に落とし込むとしたら…そうだな、“ゼ・ベムラ・イシュ”だ。」

 

「言いにくいし、見た目にあってないわね…ん〜、私が葵だから…早川茜ってのはどう?」

 

「好きにすると良い。」

 

表情筋の動かし方を知らないのか、相変わらず無表情なまま茜は言った。

二人は茜の服を調達した後、避難所になっているであろう近隣の小学校か中学校に向かう事にした。

 

「せっかくだし、手を繋いで行きましょう。」

 

駄目元で提案したが意外にも茜は分かったと差し出された手を握り返してきた。いよいよ本当に妹が出来た気がして葵はご機嫌であるのを隠せずにるんるんと歩き出した。

 

 

 

住宅街で誰かが干していたであろう衣服が落ちているのを見つけそのまま失敬した後、二人は最寄りの避難所である降星小学校へと向かった。

避難所の体育館内に備え付けられていたスクリーンに映し出されたニュース速報で政府が巨大生物を怪獣、巨人をセファールと呼称すると発表したのを見たのは夕日が沈み始めた頃だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る