この教室は秘密基地だった(1)

俺の人生で、最も濃厚な一週間があったとしたら、それは文化祭前のこの一週間だろう。

理由は簡単。班が、あいつと一緒だったからだ。


「ねえ、ちゃんと手伝ってる?サボってたら呪うよ?」


木の枠に布をかぶせていると、背後からそんな声が飛んできた。

振り向けば、いたずらが過ぎる目つきの律が立っていた。手には紙粘土の塊。

なんでお化け屋敷なのに紙粘土でリアルな手作ってんだよ。


「……俺がいなきゃこのトンネル、崩れてるだろ」


「へえ、すごいじゃん。じゃあ賞状作っておくね。『トンネル支柱職人の鑑』って」


こういう時、律は絶対に引かない。

こっちが少しでもムキになると、倍で返ってくる。


「いいよ、それ。額縁付きで頼むわ」


「額縁は自腹でよろしく」


顔はそっけないのに、口だけは達者で、

なのになんか、変なとこで丁寧。

たとえば作業中にこぼした絵の具を黙って拭いてくれてたりする。

それがまた腹立たしいほど自然で、言葉にならない。


夜、作業が終わった後も教室に残って、

照明チェックとか、音響とか、細かい確認が続いた。


「照明、赤にして!もっとホラーっぽく!」


律が前の席から声を張る。

俺は脚立の上でスイッチを切り替えながら答えた。


「赤な、ほら。これで『地獄へようこそ』っぽいか?」


「……ちょっと、いいじゃん」


「でしょ?」


「意外とセンスあるのね、樹」


その言い方が、なんか素直じゃなくて。

でも、ほんの少し、嬉しくなった。


「なあ」


「なに」


「文化祭終わっても、なんか作るか?お前となら、わりとマジでいいの出来そうだし」


「それって……」


「ロックバンドとかさ。俺ギター、お前ドラム」


「……なにそれ、ダサ」


赤い照明の中で、律が笑った。

でもその声は、ちょっとだけ優しかった。

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