ガラクタの星のスピカ・スペアたち
双六トウジ
プロローグ 出会い
ピガーーッ、ピガーーッ!
金属が擦れるような、けたたましい警告音――それはシュガーホイール司令部で鳴り響く、ワープ装置起動アラームだった。
「うおっ」「フガッ」
驚いた拍子に飲みかけのコーヒーが入ったカップが指から離れた。だがそれは床にこぼれず、宙に浮かんだままだ。
そりゃそうだ。ここは無重量の宇宙船の中なんだから。
「ふあ〜〜、また始まりましたね〜、ガラクタのワープ」
さっきまで隣で鼻ちょうちんを出しながら寝ていた側近のあたしが大あくびをかましながら言った。
回転式の椅子に座ってクルクル回る彼女は、あたしと同じ顔(可愛い)、同じ青い髪、同じ青いセーラー服だ。違うのは髪型かな。彼女はポニテ、あたしはツインテ。んで、あたしは王冠被ってる。
彼女の言う通り、シュガーホイールが周回する星、【ガラクタ・ジャンクション】のワープ装置が再び起動したのだ。宇宙を漂うスペースデブリをこの星へ移すために。
「今回は使えるガラクタが回収できるといいなぁ~」
あたしたちはクローン。たくさんいるおんなじ顔の女の子、クローンガールズ。正式名称は【スピカ・スペア】。あたしたちの目的、存在理由、尊き使命は、ガラクタ・ジャンクションを守ること。
守るってのはつまりこの星をあたしたちの制御下に置くこと、なんだけど……残念ながら諸事情であたしたちはそれができていない。だからわざわざこのドーナツ型宇宙船シュガーホイールから出て、役立ちそうなスペースデブリを回収しなければならないのだ。
「そんで今回の回収は何人編成で、どの方角に向かいます? 女王様」
「う~ん……」
あたしはワープ装置を観測しているモニターに目を移した。何か大きな物体がワープされれば、観測データに揺らぎが発生するはずだ。
「んーー……、星の北は通常、南も通常、西はちょっと量が少ない……。東、東……ん、んん?」
東に、今までにない大きな揺らぎがあった。あたしたちクローンの記憶にも記録にもない、未知のデータだ。
「なんだあれ」とあたしがぽつりと言うと、側近はマニュアルをペラペラめくり始めた。
数秒経って彼女は答えた。「んーー……、存在の情報量が多い、ってことかも?」
「存在の、情報量?」あたしは首をかしげる。
「要は、知的生命体?」側近も首をかしげる。
「知的生命体ぃ? それはない、絶対ない。ワープ装置はスペースデブリの中でも、機械的なゴミだけを移送するよう設計されているはず」と、あたしは反論。
「確かにそれは過去のあたしがそう設計した。でも実際、何か歪な物がやってきたのは絶対的事実」と、彼女も反論。
「……」
「……」
「「確かめるっきゃない!」」
あたしたちは早速編成を組んで、ガラクタ・ジャンクションの東へ向かうことにした。
「おっと、側近ちゃんはお留守番ね」
「あ、ずる〜い」
「あんたさっきまで寝てたでしょ!」
***
そんであたしたちが東の方にやってきた結果、正解はこうだった。
落ちてきたものは生命であり、機械でもあるもの。サイバネティック・オーガニズム、略してサイボーグ。略してんのか知らんけど。
「わー、おててが壊れてるー」
「足も両方穴があいてるねー」
「かわいそーだねー」
三人の兵士スピカ・スペアが口々に失礼なことを喋りながら、地面に無様に落ちている、機械の手足が壊れたサイボーグを囲んだ。
彼女達は戦闘を許可された個体であり、頑丈な宇宙服と銃を与えられている。万が一このサイボーグが襲ってきても対応できるはずだが、ピクリとも動かないところからして過剰防衛だった気もしなくもなく。
サイボーグから少し離れたところに立っていたあたしは声を張り上げた。
「こらこら兵士ちゃんたち! バグが来る前にこの人をシュガーホイールに運び込むよ!」
「え、コイツ中にいれるんスか女王様? ヤバイ奴かもしれねーのに」
「ウチの家訓は!?」
「……『愛は循環させねばならない』ー。でもやっぱり危ないっスよ」
「だーからあんたたちが運ぶんでしょ〜がよ〜。そんでいざとなったら躊躇無く肉の部分撃ってね☆」
「女王様ってば超過激〜」
こうして、あたしたちスピカ・スペアと、四肢のないサイボーグは出会ったのだった。
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