第2話 風のにおい


桜の花びらが舞ってるのを、ぼんやり眺めてた。

春は、なんとなく気が重い。クラス替えのせいかもしれないし、季節の匂いのせいかもしれない。


窓の外を見てると、誰とも話さなくて済む。

この時間が、わりと好きだった。


でも――

ちらりと、隣のクラスのドア前に立ってる誰かが目に入った。


……那美、だった。


目が合いそうで、合わなかった。

たぶん、向こうはもう気づいてたのかもしれない。俺のこと。


あれから、ちゃんと話してない。

話しかけられたときも、うまく返せなかった。

あの頃、何を言えば正しかったのかも、今もわからない。


「……なんでもいいよ、か」


ぽつりと漏らした言葉が、自分でも痛かった。


あれは、逃げだった。

本当は、何がいいのかなんて、考えてもなかった。


あのときの俺は、誰かの感情を受け止めるだけの余白を持ってなかったんだ。


今なら、もう少し違う言葉を選べただろうか。

それとも、またきっと「窓の外」を見てたんだろうか。

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