第12話 チョコレート作り

 タロイの工房ではチョコレート作りに躍起になっていた。そこには様々な種類のチョコレートが並んでいた。どれもこれも素晴らしい出来だった。


「ジロイの奴に負けるものか! きっと素晴らしいチョコレートを作って王様に褒めていただくのだ!」


 タロイは職人たちに声をかけた。


「わかっておりますよ。それに今、試作しているのはもっと素晴らしいもので」


 アニーは意味ありげに言った。するとタロイは目を輝かした。


「するといよいよあれができるのか?」

「へい。タロイ旦那が書物を見て試作したものを、さらに改良しました」

「それはいつできる?」

「とっておきの材料を取り寄せていますので、それが来たらできます。この普通の材料でも素晴らしいのに、その材料を使えば並ぶものはないほどと思います。」


 アニーは自信満々に答えた。


 ◇


 一方、ジロイの工房でも職人たちが熱心に働いていた。そこでもやはり多くのチョコレートが並んでいた。職人たちが工夫を凝らして様々なチョコレートを作っていた。


「いいか! とびっきりのを作るんだ! タロイの奴にもう大きな顔をさせねえ!」


 ジロイは職人たちに声をかけながら大きな容器を抱えてきた。オットーが尋ねた


「ジロイ旦那。それは?」

「いいものだ。これでチョコレートは劇的に変わる!」


 ジロイはうれしくてたまらないようだった。彼は素晴らしくて新しいチョコレートの手がかりをつかんだようだった。


「これをたくさん、混ぜるんだ!」

「へい!」


 オットーをはじめ職人たちは一生懸命に混ぜた。チョコレートは優しい色に変わり、いい匂いも漂った。


「これなら勝てる! 見ていろ! タロイ!」


 ジロイは自信ありげに笑った。


 ◇


 コーディーはリーマーが寝たのを見届けて部屋を出た。そしてふと作業場の方に足を向けた。

 そこはかつて多くの職人がチョコレート作りに懸命に取り組んでいた。タロイ兄さんもジロイ兄さんもお互いに協力し合って仕事をしていた。そしてその作業場の中心には名人と言われた父のリーマーがいた。いつも厳しい顔を指示を出していたが、時折、優しい笑顔を見せていた。

 あの頃はこの作業場にはあふれるほどの活気があった。できたチョコレートを試食する時は、皆、満足して幸せそうな顔をしていた・・・。


 だが今はどうだ。使われなくなった道具が散らかり、ほこりが積もっている。人の気はなく、がらんとして寂しいありさまになっていた。ここでチョコレートを作る者はもういない・・・。コーディーの心に悲しい気持ちがあふれて目から涙がこぼれた。


「少しよろしいですかな?」


 そこに老人が現れてコーディーに声をかけた。彼女はあわてて涙をふいた。


「どうかされましたかな?」

「いえ・・・昔のことを思い出していたものですから・・・」


 コーディーは顔をうつむいたまま答えた。彼女の顔はやつれて、その目の下には隈ができていた。


「ずっとお父様のそばに付き添っておられてお疲れではないですかな?」

「いいえ。父の姿を見ていたら・・・。私のためにこうなったかと思うとこうでもしなければ気が済みません」


 コーディーはそう言った。老人には彼女の心がひどく痛んでいるように見えた。


「話はナギノさんから聞きました。しかしあまり自分を責めてはいけませんぞ」


 老人はやさしくそう言った。だがコーディーは悲し気に首を横に振った。


「いえ、私が悪いのです。父の言いつけに背いて修行に出たものですから・・・。父は呆けてしまい、兄たちは仲違いし、家族はバラバラになってしましました。それにこの工房はこんなになってしまって・・・」


 コーディーは嘆息した。そんな彼女を老人はやさしく励ました。


「よいかな。コーディーさん。あなたの心はいつかきっと天に届く。また家族が集まって仲良く暮らせる日が来ましょう。コーディーさん。気を強く持つのじゃ」

「はい・・・」


 コーディーの返事は心なしか小さかった。老人は何とかしてやりたいと思った。そのためには・・・。


「お父様がよくなられれば変わってもきましょう。あなたが献身的に世話をなされているがお父様の心には届いておらぬ。何かお父様の心に響くものがあれば・・・」

「それはなんでしょうか?」

「そうじゃ。あなたのチョコレートは素晴らしかった。あなたが丹精込めてチョコレートを作るのじゃ。その思いはもしかしたらお父様に通じるかもしれぬ」


 その言葉にコーディーは顔を上げた。


「やってみます。必ず父の心に響くチョコレートを作ります」


 彼女は希望を見出し、その目は輝いていた。



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