殺さずの解体屋
竹部 月子
殺さずの解体屋
第一章 解体屋はじめます
第1話 異世界行ったら何したい?
城門前のモンスター解体所は、今日も長い行列を作っていた。
「ツノと魔石」
「あいよ」
作業台に乗せられたホーンラットが、一刀で角を落とされ、返す手で腹から魔石を取り出される。
そして、その
嫌なら見なきゃいいのに、しかめっ面になってしまう
代わりに手の中のチラシを、強くにぎりしめた。
「よぉオンジ。ヒマならモンスターの
肩を叩いてきたのは、剣士のロイだ。
「悪い、今から不動産屋行くとこ。やっと希望に合う物件が出た」
「ついにか、やったな!」
自分の事のように喜んでくれるロイは、マジでいいやつだ。
「オンジがモンスター解体屋始めたら、大物狩って持ってくからな!」
おうよ、と片手を上げて、石畳みの道を駆け出した。
俺は、
だいたい名乗ると「実家は寺?」って聞かれるけど、ごく普通の農家の息子。
大学を出て、上京してブラック食品会社に勤めて、32歳でUターンした。
仕事帰りに無意識で自転車漕ぎまくってたらしくて、気づいたら栃木の実家の玄関開けてたんだよね。
「ただいま? あれ、俺なにしてんだろ、もう仕事、行かなくちゃ……東京戻んなくちゃ」
俺の顔見た母ちゃんが泣いて、父ちゃんにはすんごい力で肩をつかまれた。
「智彦、おまえ本当に東京に戻りたいんか」
「戻り…………たくない」
「じゃあ帰ってくればいいよ、智彦の家はここなんだから」
涙声の母ちゃんに言われたら、それもそうだなってスコンと納得して、俺は辞表を書いた。
しばらくのんびりしてから、父ちゃんの畑の仕事を手伝いはじめた。
両親も気づけば結構なトシだったし、このまま二人を介護して見送ってやるつもりだったんだ。
なのに人生は予定通りにはいかないもんで、俺が田舎に戻った翌年に母ちゃんが病気で亡くなって、追っかけるみたいに父ちゃんも逝っちゃった。
幸い近所の人たちはみんな良くしてくれて、一人暮らしにはなんとか慣れた。
シカやイノシシから作物を守るために、罠猟の免許をもっているじいさんがいて、肉を分けてもらったらめちゃめちゃ美味くて感動した。
しばらく通い詰めて解体技術を教えてもらったりして、俺の生活はどっぷりとスローライフに染まっていった。
草刈りして、畑やって、晴れて降って、また一年。
たまに寂しくないと言えばウソになるけど、このまま自然に囲まれて穏やかに暮らしていくのも悪くない。
そう思い始めていた、34歳。
久々に町まで買い出しに行く途中の道で、俺の運転する軽トラにダンプカーが突っ込んで来て……。
目が覚めたら異世界に転移しちゃってましたっていう、お決まりのアレだ。
転移した場所は、イノハントヴェルシュシュフカ王国。
もう1回言う? イノハントヴェルシュシュフカ。
大丈夫。俺もギルドの人に4回言い直してもらったから。
モンスターが生息する森に、核になる巨大ダンジョンがあって、剣と魔法が使える冒険者はその森林境界を押し上げながら、人々の暮らしを守っている。
大冒険の幕開けだと思って、俺もウキウキで冒険者ギルドの適性診断を受けた。
結果は冒険者ランクF。
Aから始まってGまでのランクで、下から2番目のF。
そしてGランクは、冒険者に向かないから町の中に居なさいねという町人ランクのようなものだから、Fランク冒険者は実質最底辺だった。
住人はアニメみたいなカラフルな髪色で、白人さんかオリエンタルな雰囲気の掘りの深い顔立ちばかり。
なのに、俺は見た目も年齢も変わらず、そのまんまの姿で日本からこっちに来ちゃった。
力も強くなってる気がしないし、特別なスキルや魔法に目覚める気配もない。
無自覚無双とかとは、全く縁の無さそうな異世界転移者だった。
そんなわけで、安全な城門近くで薬草摘んだり、荷運びだけする係でクエスト参加させてもらったり、ひたすら地味に日銭を稼いで暮らした。
「
元気に自己紹介すると、だいたいの冒険者がこう返してくる。
「カンン……オンジ、モモヒコ?」
すぐに言葉も通じたし、文字も読めたのに、イノハントヴェルシュシュフカ王国がめちゃめちゃ馴染みのない音だったように、俺の名前もこっちの人たちにはえらく発音しにくいらしい。
「よろしくオンジ。あー、モモヒコ?」
「いや、オンジの方で!」
今では「Fランクのオンジ」でだいたい皆、俺のことだと分かってくれるようになった。
最初は見るもの、触れるもの、話す人、なにもかもが珍しくて楽しかった異世界生活も、5年もやれば新鮮さも無くなる。
えり好みもできず仕事を受けて、安い宿でメシ食って寝て。
あれ、これって東京にいた頃の生活と変わらないんじゃ……?
計算したら自分がもう40歳になっていることに気付いた時、猛烈な焦燥感に襲われた。
だめだろ、俺。
せっかく地球を飛び出して、別の世界まで来たのに、セルフ社畜みたいな暮らししてちゃダメだろ!
この世界で俺ができること……違う、俺が望んで
自分の胸に問いかけた時、真っ先に浮かんだのは、城門ポータルの脇にあるモンスター解体所の光景だった。
有用な素材だけ回収されたモンスターの「残り」が入った袋を、職人が足で蹴る。
「さっさと外に出せ、作業の邪魔だ!」
「すんません」
重そうな袋をヨタヨタと運んできて外の荷車に積んだ男に、おそるおそる尋ねる。
「これ、この後どうなるの?」
どうって……と、少し首をかしげた後で、男は当たり前のように答えた。
「ゴミに出すに決まってるだろ」
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