第三章 異世界に来たけれど討伐クエストを受けられない

3-1 神様が神様らしくない

 気がついた時には、俺は白い空間に立っていた。


 上下左右、見渡すかぎり、どこまでも色味のない景色が広がっている。ひたすらに真っ白な場所だった。


 しかし、白いというだけで、寒い空間ではなかった。


 どうやら雪原ではないらしい。


「やあやあ、久しぶりだね、四平よんぺい君」


 まるで瞬間移動でもしたみたいに、俺の前に中性的な美少女(美少年?)が姿を現した。


 異世界の神、ウルルウだった。


「えっ、また死んだの?」


 ウルルウの姿を見て、俺はようやくこの場所がどこなのかを察する。


 異世界に転移する前に――地球で信号無視をして死んだあとに、一時的に滞在したのがこの白い空間だった。


 つまり、俺は異世界で二度目の死を迎えて、再び死後の世界に戻ってきたということなんだろう。


「まさか。ボク自身は、世界に直接介入できないからね。キミが寝ている間に、キミの魂を呼び出させてもらったんだ」


 どうやら、ここは死後の世界というよりも、神の世界?魂の世界?的なものだったらしい。


 なんだよ、あせらせやがって。どうして死んだんだとか、もう一度復活できるのかとか、いろいろ考えちゃったじゃねえか。


「俺に何か用でもあるのか?」


「なかなか頑張ってるみたいだから、たまにはねぎらってあげようと思って」


 神なだけあって、俺がマンモスを倒したり、登録試験に合格したりしたことを、ウルルウは把握しているらしい。……伝説の剣を抜けなかったこととかも知られてると思うと恥ずかしいな。


 ただ労うと言ったわりに、ウルルウはその場からまったく動こうとしなかった。ただ指を鳴らしただけだったのである。


 すると直後、何もなかったはずの白い空間に、突然ある物体が出現していた。


 机と布団が組み合わさったもの――すなわちコタツだった。


「さぁ、入って入って」


 神の世界に庶民の家具が置かれているというシュールな光景に戸惑っていると、ウルルウはそう勧めてきた。どうせなら、日本の民家っぽい壁や床も出してくれると、もっと落ち着けるんだが。


「ミカンあるけど食べる?」


「え? ああ、もらうよ」


 俺の返事を聞いて、ウルルウはもう一度指パッチンをする。コタツの天板の上に、ミカンの入ったかごが現れる。


 さらにコタツのそばには、冷蔵庫が出現していた。


「アイスもあるよ。バニラとチョコと抹茶」


「じゃあ、バニラで」


「えー、別のにしなよ」


「お前も食いたいのかよ。なら、抹茶でいいよ」


 そもそも、また指パッチンで出せばいいだけなんじゃないのか。


 ただウルルウによれば、この能力を使うと神の力を消費してしまうらしい。「地球人を転移させる」「伝説の武器を作る」など、神力にはいろいろ使い道があるので、あまり濫用はしたくないのだそうだ。もう十分濫用してる気もするが、抹茶まで取り上げられたら困るので、それは黙っておくことにした。


「暖房が効いた部屋で食べるアイスは美味しいねえ」


「そうだなぁ」


「お寿司取ろうか?」


「実家か」


 つーか、結局濫用するんじゃねえか。


 一応神なんだから、もっと世界のためになるようなことに力を使えよ。そう言いかけたが、やめにした。すでに使っていることに気づいたからである。


「さっきお前は世界に直接介入できないって言ったよな?」


「うん? そうだよ?」


「それで俺を送り込んで、大魔王を倒させようとしてるってことなのか?」


 転移の話を聞かせたら、メイナはそう予想していた。俺もてっきりそれが正解だと思っていた。


 けれど、ウルルウは悩ましげな顔つきをするのだった。


「う~ん、そういうつもりじゃなかったんだけどなぁ」


 目的を伏せたまま転移させたことを後ろめたく思っている……というわけではないらしい。むしろ、予想とは逆のことを言い出す。


「確かに世界を守りたいっていうのはその通りだよ。なんてったって、ボクの世界だからね。できれば、キミには大魔王を倒してほしいと思ってる。

 でも、別にそうじゃなくてもいいんだ。あのまま死んだことにするには惜しいと思って、ボクの世界に来てもらったんだから」


「じゃあ、なんで伝説の武器の近くに転移させたんだ?」


「剣や魔法の話に食いついてたからね。どうせ冒険者になるなら、強い武器をあげた方がいいかと思って」


 確かに、スローライフとか内政とか、ファンタジーの中にもいろいろジャンルがあるけれど、俺の中では剣や魔法を使ったバトルのイメージが強かった。危険度の高そうな魔王は他人任せにしたとしても、モンスターの討伐は自発的にやっていたことだろう。


「キミの性格なら、なんやかんや大魔王討伐を決心するだろうっていう打算がなかったとは言わないけどね」


「…………」


 俺がアニメやゲームみたいな話に憧れているオタクだという意味なのか。それとも、お人よしだという意味なのか――


「本当に俺をあてにしてるなら、まずは街に転移させるべきだったと思うんだが」


「あっ」


〝あっ〟って、お前……


「お寿司じゃなくて焼肉の方がいい?」


「メイナが来なかったらどうするつもりだったんだよ」


 あのまま凍死するルートもあったのか。地球で若死にした挙句、異世界に転移した直後に即死するとか、シャレになってないぞ。


「まあまあ結果オーライでしょ。あんないい子と知り合えたんだから」


「いいのは見た目だけだろ。どうせなら、オタクに優しいギャルの近くに転移させてくれればよかったのに」


「もう、文句ばっかり言って。そんなんじゃあ、いつまで経っても結婚できないよ」


「実家か」


 異世界は文明のレベルがさほど高くない。そのせいか、昔の日本みたいに結婚率が高く、そのうえ早婚みたいだった。でも、さすがに十七ならまだあせるような年じゃないだろう。


「メイナといえば、お前の他に悪神がいて、そいつが大魔王を生んだって話だけど」


「その通りだよ」


 ウルルウはコタツから出ると、またもや指パッチンをした。


 マーカーとホワイトボードを使って、図解を始めたのである。


「この世界には二人の神がいる。一人はもちろんボクだ。生や愛情、希望なんかを司っている、言わば創造神ってところかな」


「お前、そんな立派な神だったのか」


 そういえば、異世界の動物って、もともとはこいつが生み出したものなんだっけか。確かに創造神っぽいエピソードである。


 あとこれはわりとどうでもいいんだけど、自画像がめちゃくちゃ上手だった。絵を描くのも創造だからだろう。


「もう一人の神はボクの逆、言わば破壊神だね。死や憎悪、絶望、清楚系幼馴染に強引に言い寄るチャラ男なんかを司っている」


「最後のも創造ではあるだろ」


 脳が破壊されるような感じがして、俺も正直苦手なんだが、好きな人だっているわけだからな。自分が嫌いなジャンルというだけで否定するのはよくないだろう。


「さっきも言ったように、創造神であるボクの目的は世界の存続だ。だから、勇者や伝説の武器を生み出して世界を守ろうとしてる。反対に、破壊神のやつは世界滅亡のために、大魔王やモンスターを生み出してる。

 ただ破壊神は壊すのは得意でも作るのは苦手だからね。そのせいで、大魔王は数百年に一度しか現れないってわけ」


 そこまで説明したあと、ウルルウは相関図に新たな人物を登場させた。なんか冴えないやつだな、と思ったら俺だった。


 さらにウルルウは、俺と魔王との間に不等号を書き加えていた。


「もっとも、破壊神が生み出したものだから、戦闘力はとてつもなく高い。そういう意味でも、キミに戦えとは言えないんだ」


「ふーん……」


 戦えば今度こそ本当に命を落としかねない、ということだろう。


 もっとも、俺はまだ冒険者になったばかりなのである。まずはスライムやゴブリンあたりの討伐クエストからこなしていくつもりで、魔王城に乗り込む気なんてさらさらなかった。


 話に夢中になっている間に、アイスは半分溶けてしまっていた。ほとんど飲むようにして一気に食べ切る。


 カップが空になると、俺は改めてウルルウに尋ねた。


「……それが理由か?」


「なんのことだい?」


「まさかメシを食わせるために呼んだってわけじゃないんだろ?」


 かといって、単に魔王が危険だと忠告したかったわけでもないだろう。忠告されるまでもなく、オタクならレベル上げの重要性は理解しているからだ。


「大魔王が街に攻めてくるんだな?」

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