第4話 ボス狩り♪ ボス狩り♪ ついでに人助け!

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルナは扉水に吞み込まれ、数秒後、吐き出される。


 赤い月に照らされた一帯。山に囲まれ、甲冑と刀が転がる荒れ地。


「…………ッ‼」


 幻世の広さは、入るまで分からない。もしかしたら広大な幻世で、隠れながらやり過ごす可能性もゼロではなかった。


 しかし現実は、そう甘くない。


 百を超える有象無象の妖ですらC級。そしてB級の気配が五つ数百メートル先から放たれている。


「…………」


 濃密な死の予感、確信で、自然とルナの息は荒くなる。


 瞬時に薄皮一枚までオーラの発露を抑え込んでいた。


 ――――〈封絶〉。薄皮一枚までオーラを抑え込み、気配を抑える事ができる技だ。


「…………ッ!」


 ルナは〈封絶〉を使用しながら、三体の鎧を着た〈人骨〉と戦っている。これは、彼女の技量が卓越している証だ。


 サギリから天才と言われる所以である。


 通常、〈封絶〉を使用しながら難なく戦う事は困難。よほど天才でもなければ不可能な行為だ。


 しかし、これが逆に彼女の寿命を縮める。


「――――ッ!」


 気配だ。山の頂上に居たボスが動き始めた。つまりルナの存在に気づているのだ。そして警戒している、ルナの才能を。


 稚拙な戦い方であれば、敵の警戒も薄く、有象無象が相手をしただろう。だからこそルナの才能の輝きが、敵の興味を唆ってしまった。


「…………くッ」


 C級が十体ほど増え、囲まれている。今、彼女は素手だ。剣さえあれば話は別だった。


 この状態では勝機はないと、ルナは息を呑み半ば死を受け入れる。


 そして、一週間前も同じくらい、いや、もっと絶望的な状況だった事を思い出す。


 あの時の彼女は、無謀な孤独の戦いに身を任せて死ぬ寸前だった。


 街で偶然発生していた扉水に入るが、腕と足を一本ずつ失い、腹にも穴が空いていた。ギリギリ命を繋いでいたのは、オーラで少しずつ回復していたからに過ぎない。


 だが扉水の中は当然、妖の巣窟。もう死を完全に受け入れていた時だった。


 ――――彼に出会ったのは。


「こりゃあ、絶景だね」


 黒い光の裂け目――扉水から、トウマは出て来た。片手にはルナのロングソード。


 振り返り、その姿を見た時、彼女は思わず目に涙が溜まる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 自分の所為で両親が死んだ。


 珍しい話じゃない。


 この世界は強者に厳しい。強いが故に恐れられ、強いが故に嫌がらせされる。


 強い者ほど家族が狙われる。


 ルナのその一人だったというだけ。それだけの話。何も珍しい話じゃないのだ。


 だから気にしなくていい。周囲は言った。自分にもそう言い聞かせた時期はある。


 しかし不安だった。自分が突出していたから。


 自分がA級に至る才能を持っていたから。


 今は良い。まだ弱い。


 だけどいずれ強くなる。


 強くなった時、それまで親しくしていた者はどうなるだろう。


 想像に難くない。両親と同じ末路を辿るだろう。


 それ故に気を許せるのは、A級のハリンくらいだった。


 でも、それ以外の人は有象無象。


 別に冷たくするほどでもないが、親しくなるほどの存在ではない。


 いや、親しくしたら駄目なのだ。


 そう思い生きた結果が、人を避けた無謀な戦い。


 ルナは死に掛けて扉水に飛び込んで、彼と出会う。


 トウマは何も言わず、ルナを助けた。当たり前の様に何の見返りも求めなかった。


「私の、体を、好きにしていい……。見捨てない、で……」


 その言葉を聞いたトウマは、呆れた様な顔で、「見捨てないよ。変な理由で体には触れないから、安心して回復に努めて」と言った。


 彼は宣言通り、ルナに手は出さず、三ヵ月間幻世でルナを守りながら戦い続けた。


 ずっとルナを守り続けてくれた。


 自分より弱い人に守られた経験は、初めてだった。


 そして自分より強くなるかも知れない人に出会った事も、初めてだった。





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