第26話 反撃

手首を拘束していた縄が切れ、緊張の糸が一気に解けてゆく…


凪斗や、他のメンバー達は、撮影に夢中で雪の方を向いており翠には全く気づいてる様子はない。


「今だ。チャンスは今しかない…。」翠は背後から虎視眈々とその瞬間を見計らっていた。


凪斗…こいつは、腕っぷしも強くて、射撃の精度も高い一番、厄介な相手だ…

正面からまともにやりあったら、俺じゃ到底敵わない…


「だから、お前には先に眠ってもらう。」



翠は、血と汗を流しながら、先程まで、凪斗が使っていたバットを、静かに拾い上げ、血走った目で勢いよく振り下ろした。


狙いは側頭部。容赦のない軌道。意識を断ち切る一撃。


ガッ…!!


鈍い音が響き渡り、凪斗はよろめく…



「ぐぁぁぁ!!いってぇ…」凪斗は頭を抱えて大きくふらつきながらしゃがみ込んだ


その隙に翠は、凪斗の銃とテーザーガンを奪い取り、すぐ近くにいた土方の首に腕を回して土方のこめかみに銃を突きつける


凪斗の叫び声にメンバー達の視線が凪斗に向いた


だが…


「……ちっ」


翠が舌打ちする。


凪斗は殺気を剥き出しながら、頭を押さえてこちらを向いて立ち上がった


「翠ぃぃ!!やりやがったな…てめぇ!絶対ぶっ殺す!!

どうやって縄から抜けた?

くそっ…完全に油断してたぜ。」


「一発じゃ無理か。やっぱ、タフだな…お前は」


翠の表情から余裕が消える


「動くな!このオッさんがどうなってもいいのか?」


翠は、冷たい銃口を土方のこめかみに突きつけたまま、辺りに緊張感が走る


メンバーたちの視線が、土方と翠の言い合いに集中した、その一瞬隙をついて、雪は静かに逃げ出した


緊張で強張る足を無理やり動かす。


「雪は裸のまま、まっすぐ翠の元へと走った。


「翠さん!!」


「……雪!!俺の後ろに隠れてろ!」


雪は翠の背後に身を潜めた。


「土方さん!

翠、後ろからとは卑怯だろ!」

メンバーの一人が声を張り上げる。


「寄って集って、一人の女を陵辱するような人間共に卑怯なんて言われたかねぇよ。

お前らの方が充分卑怯だろうが!」


翠は、全身を襲う激痛で意識が遠のきかけていた。それでも、雪を守るため、必死に気を張り詰める。

鋭い眼光でメンバーたちを睨みつけ、土方のこめかみに銃口を押し当てたまま、冷たい声で命じた。


「今すぐ武器を捨てろ!」


命令に従い、素直に武器を手放す者もいれば、なおも抵抗を示し、手放さない者もいた。


翠は一瞬の隙も見逃さず、土方を盾にしながら、武器を持ち続けるメンバーを素早く、正確に撃ち抜いてゆく…

一人、また一人と倒れてゆく仲間を目にしたメンバーの一人に焦りが見えた



「うわぁぁあっ!土方さん!す、すみませんっ!」


混乱したメンバーの一人が、パニックのまま引き金を引く。

弾丸は翠ではなく、盾にされた土方の肩を貫いた。


「ぐあぁっ!何さらしとんじゃ、ボケッ!!」

土方が怒声を上げた。


その様子を見て、翠はふっと笑い、そして嘲るように口を開いた。


「ははっ…やっぱり面白ぇな、お前ら」

「仲間撃っといて『すみません』だと?

なんのギャグだよ?

結局、自分が可愛いだけじゃねぇか。」


銃を構えたまま、翠は笑っていた。

その瞳に映っているのは、敵でも、仲間でもない。

覚悟の有無、それだけだった。


翠は、組織の中でも随一の射撃の腕を誇っていた。

右目を失ってなお、残された左目の視力は良く、距離のある標的すら正確に仕留める。


彼が構えると、空気が変わる。

殺気ではない。圧倒的な「確信」だった。


「俺は、守らなければいけないものがある。

お遊びは、ここまでだ」


そう静かに言い放つと、翠は迷いなく引き金を引いた。

反撃の可能性がある者から順に、一人、また一人と正確に…

容赦なく撃ち抜いていく。


頭を、心臓を、膝を。

命を奪うか、二度と立てなくするか。翠の弾には、どちらかしかない。


悲鳴と怒号が飛び交う中、彼の手は一切ブレなかった


「おいっ!お前ら、何をモタモタしとるんじゃ!」

「裏切り者のネズミ一匹に、てこずりやがって……っ!

早く片付けろ!!」


肩から血を流しながら、土方は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。

その声には、怒りよりも焦りと、恐怖が色濃く滲んでいた。


翠は一瞬だけちらりと土方に目をやり、ふっと鼻で笑う。


「チッ… 誰がネズミだって?」


先程まで絶望しきっていた、緑色の瞳には、あの頃の冷たく鋭い光が宿っていた。

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