メイジアメシア~転生したら魔眼持ちとして忌み嫌われていたが、魔術の才能があったので最強魔術師に弟子入りして無双しようと思います~

凪怜士(なぎれんじ)

第1話さよなら、嫌いな世界と嫌いな俺

 かのトーマス・エジソンはこんな名言を遺したそう。

「天才とは、1%のひらめきと99%の努力である」

 そして、アインシュタインはこんな名言を遺したと。

「天才とは努力する凡才である」


 俺は疑問に思う。努力できない凡才は、何者なんだと。特別な才能が、人より輝ける何かが俺は欲しかった。


 就活の面接帰り。会社近くの駅のトイレで、ふと鏡越しに自分の顔を見る。何社も落ちているというストレスや焦りのせいで顔が死んでいると思う。元より、この世界で持て囃されるようなイケメンからは程遠いんだが。



「何してんだろうな……俺は」

 先程面接官に言われた一言が頭を過ぎる。


「君さぁ、大学生活何してきたの?」


 彼が就活している中で、グサリと刺さった言葉。その言葉が頭の中を反芻し続けていた。

 下を向いて歩いた先にたどり着いた公園で一人、ブランコに座りながら俯いていると、地面には小さいシミがポツポツと。

 雨が降り始めた。カバンの中を漁る。しかし、


「あ……、折りたたみ傘忘れた」


 これは家までダッシュしないと、就活で使う一張羅のスーツがびしょ濡れになる。でも、もうそんなことをやれる力も残っていなくて。

 さっき面接官に言われた言葉が、頭の中で反芻する。


「何してきたって? 何も出来なかったんだよ。いや、何もしてこないで逃げてきたんだよ。俺だって、何かの役に立ちたかったよ」

 その回答を呟きながら、自分の太ももを殴りつける。


 一呼吸おいて、カバンからクリアファイルに入った履歴書を出し、見つめる。


「神崎 有人」


 ボソッと一言。これは俺の名前だ。そして、その履歴書は空白だらけで笑うしかない。


「こんなんじゃ、落ちるのも当然か」


 雨足は強くなっていく。髪もスーツもびしょ濡れだ。


 周りの同級生は、どんどんと企業から内定を貰っていく。なんなら、何社も内定を貰い、そこから選ぶのも悩んでいるのを見かける人だっている。俺は友達なんていないので、傍から見ただけなんだけれど。


 誰にも選ばれないんだろうかと焦燥感に駆られ、ジワジワと心を蝕まれていく感じがする。心が息を止めてしまっている気がする。

 雨が降り始めてから、30分が経とうとしている。


「さっさと帰らないと。もっとびしょ濡れになるや」


 ブランコから立ち上がり、公園を後にする。

 駅まではだいたい20分前後。

 今出せる速さで歩く。


 傘を差す人々とすれ違う。後ろ指を指されてる、笑われている気分になる。

 そう思ってしまう自分が嫌になる。別に世界はそういう訳ではないのに。

 はぁーっとため息をつく。


「今と違う自分になれたら、見える世界は違うのかな。漫画やゲームの特別な力みたいなものでもあればな……」


 ねずみ色の空に手を伸ばす。何か掴めるわけではないのに。言葉にしたって何か変わるわけではないのに。この世界は作り物ではない。現実を見ていかなければ生きていけない。これはただただ、漏れ出た言葉だった。


 そんな時だった。


「きゃーーーーー!!」


 という悲鳴が耳に届いた。それは駅の方だった。有人は声につられて駆けていく。

 駅前は騒然としていた。


 現在で3人、うつ伏せで倒れている男女。雨でわかりづらくなっているが、腹部あたりから流血している。


 その人たちの周りには、サバイバルナイフを振り回し「キャハハハ!!」と笑う男性が立っていた。まさかの通り魔だった。


「人ってあっさり死ぬもんだよな? 分かりきってたことだけどな」


 そう言いながら、キョロキョロと見回す。まるで、捕食者が次の獲物を探すように。そうすると、目についた女性、制服を着ているので女子高生だろうか。彼女に指を差す。


「次、死ぬのお前な? キャハハハ!!」

「えっ……、えっ…………」


 指を差された女子高生は、震え上がってしまいその場にへたれてしまった。


 通り魔はその女子高生と距離あったのを、少しずつ歩く速度を上げて近づいていく。

 俺は考える。このまま見てるだけでいいのか……と。


 好きな漫画やゲームの主人公であれば、こういう危機を見過ごさず、立ち向かうんだろう。だけれど、何の取り柄もなく、ただただ目的もなく人生から逃げて生きてるだけの無価値の人間だ。そんなことなんて出来るわけが無い。


 目の前で女子高生が怯えていた。誰も、彼女に目を向けようとしない。


 周囲の空気が、まるで「見なかったことにしておけ」と囁いているようだった。


  ――でも、俺だけは、彼女を見ていた。


  足がすくむ。呼吸が浅くなる。心臓の音が耳の奥で爆音を立てている。

 頭の中で、もう一人の自分が冷たく囁く。


『無理だよ。お前には何もできない。何もしてこなかったじゃないか』

『どうせまた、誰にも必要とされないんだ』


  ……うるさい。


  何度も言い訳して、逃げてきた。

 誰かのせいにして、自分を傷つけないように守ってきた。


  でも今、目の前に「守るべき誰か」がいる。

 そして、俺だけが、その一歩を踏み出せる。


  だったら――


  「何者でもない俺だけど、それでも……!」


  腕も、足も、震えていた。

 けれど、その震えごと、俺は踏み出した。

 今度こそ、自分で自分を裏切らないために。


「うわぁぁぁぁ!!」

 俺は、叫びながら駆け出した。

 その叫びに振り向く通り魔。一瞬の隙が生まれる。


 全速力で近づいた俺は、通り魔の頬に一発殴る。すると、相手は固まった。その刹那、殺意の目は俺に対して向くことになる。


「何すんだよぉぉぉ、てめぇはよ!! まずはてめぇから殺してやるよ」

「やってみろよ、クソ野郎がよ」


 有人は最大限の強がりをする。自分でこんな言葉遣いなんてすることもなかったから、相手がどう動くのか恐くて恐くてたまらなかった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※


 大人になったら、何かになれると思ってた。

 でもそんなことなんてなかった。


 頑張って生きていくだけで、誰かに必要とされると思ってた。


 だけど、それは才能ありきの話。


 才能なんてからっきしの俺じゃ、誰からも必要とされることはなかった。


 学生時代なんて、影が薄くて、勉強や運動、それから芸術であったり、何か一芸に秀でてる訳でもなくて。


 周りの人達は才能に溢れキラキラしてる。俺はそれを眺めて、指をくわえて見ているだけだった。


 有人は20歳になり、就活を通して思い知る。


 才能があるだけじゃダメだって。才能もあった上で、動くことが出来る力もないといけないと。ただただ受け身で生きてきた。言われたことをして、親が望むいい子をやりきって。親は褒めてくれたけど、社会に出たら認めてなんてくれなかった。


 当たり前だ。そこに神崎 有人がいないのだから。


 神崎 有人という存在は、自分で作っていくしかなかったのにそれを蔑ろにした。


 それが今の自分。がらんどうだ。

 でも、空っぽなら今から注ぎ込めるんじゃないだろうか。


 子供の頃は一端に、漫画やアニメに出てくるヒーローや救世主、勇者になんて憧れた。


 弱きを助け強きをくじく。世界に生まれた悪を打ち倒す。今に覚えばそんな堂々として、真っ直ぐ生きる彼らに憧れていたのだろう。


 現実じゃそんなことはできないけど、最期くらいはそれくらいの勇気を出してもいいんじゃないかと。


 誰か1人の未来を、救うくらいの価値くらい自分で見い出せ。立て、救けろ。


 自分が見てきた正義の味方は、自らで立って手に届くものを救けただろ。


 自分の人生に悔いなんて、遺すな。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※


 有人は深呼吸をする。

 両手で拳を構える。喧嘩なんてしたこと無いので見よう見まねでやっている。


 通り魔は、右手で俺にナイフを向けている。

 お互いが少しの間、睨み合う。


 動き出したのは相手の方だった。踏み込みながら右斜めにナイフを振り下ろす。有人は咄嗟に避ける事が出来たが、後ろに重心がかかりすぎて、体勢を崩してしまう。


 その隙をついて、通り魔は俺にナイフを突き刺す。


「うぅぅぅ!!」


 左腹部を一突き。即座を傷から抜いたこと、そして雨が降っていることで手で傷をおさえても血が止まらない。痛みで咄嗟に膝をつく。


「てめぇは俺の逆鱗に触れたことを後悔させてやるよ」


 そうすると、立てない有人の左眼にナイフを突き刺してきた。


「うがァァァァ……!!」

「叫べ、喚け。俺を殴ったこと後悔するんだな」


 刺された場所から痛みがとめどなく襲ってくる。


 息を絶え絶え、視界もボヤけて意識も虚ろになっていく。死ぬということの足音が近づいてくる。


「さっきの威勢はどこいったんだよ。雑魚が」

「う、うるせぇ……」

「こんなやつにイラッとした俺にムカついてきたわ。気晴らしに気持ちいいことしよ」


 そう言うと、俺の頭を鷲掴みにする。


「ハァ……ハァ……」


 腹部と左眼からの痛みが耐えられず、息が出来ない。抵抗も出来ない、自分が情けない。


「さようなら、モブで雑魚の能なし」


 ニヤリと笑みを浮かべると、ナイフを横へ突き刺す。そこは首だった。首を刺されたことで、声もあげることが出来なくなった。


 首のナイフを勢いよく抜くと、血が吹き出した。俺の意識はボーッと遠のいていく。視界もぼやけて、状況が分からなくなる。

 通り魔は掴んでいた俺の頭を投げ捨てる。先程決めていた女子高生へと、駆け出していた。こんな傷だらけの身体では指先すら動かせず奴を止めることが出来なかった。


 ダメだ……。結局ダメだった。何も出来なかった。


 雨にうたれて、血が止まらない。身体から体温が抜けていくような感覚がする。


 あぁ、死ぬってこういう感じなのか。どうやら、人生のタイムリミットがもうすぐそばまできている気がする。


 短い人生だった。生きていて良かったとは思わないけど、最期の悪あがきにしてはよくやっただろうと思う。

 さよなら、世界。さようなら、嫌いな俺。

 さようなら……。

 さようなら……。


 ※※※※※※※※


 開かないはずの眼を開くことが出来る。

 視界が少しボヤけていて周りがどうなっているか分からない。

 身体を起こすことが出来ない。なんでだ。いや、あれだけ刺されたら無理であろう。そして全く状況が掴めない。


 起きてから数分後、眼のボヤけも無くなってきた。しかし、身体が思うように動かない。なんとか手を伸ばすと、手が濡れた。そこはピチャピチャと音がする。どうやら水たまりがあるようだ。視線すら向けることが難しいが……。

「アゥ……」

 ん? あれ? ︎︎声が出ない。というか喋れない。なんだこれ、どうなってるんだと思い、なんとか水たまりを覗き込むと、そこには見知らぬ幼児が映っていた。

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