戦場のブルーノート
水二七 市松
プロローグ
——報告番号無し(非公式文書)/場所:アリスドラント公国 東ドグマ司令部・総務部私室
「……おいおいおい。今度は本当に勲章モノだぜ、わが国の訓練生が」
男は、興奮を隠さずレポートをテーブルに放り投げる。
記されていたのは、士官学校演習でのセブン・ブライト訓練生による戦果──地方警備隊と駐屯兵による即席部隊の指揮とゲリラ襲撃敵戦力の即時撃退。周辺民の死傷者数ゼロ。
「ブルーノートの可能性がある。既に本部情報部が注視しているようだ」
もう一人の男は立ったまま、紙に目を通す。
「演習成績は全指標で高水準。戦術選択の記録は、理論教本を踏襲しながらも実戦的だ」
「なんだコイツ。同期はやる気削がれちまうぜこんなバケモンがいたらよ。げ、しかもこいつ首席じゃないぜ」
「……これは、放っておけば中央司令部に囲われる」
「まぁ俺もそう思う。で、どうする?」
クラウドは迷いなく言い切った。
「東ドグマ司令部より配属希望があった、という形にしろ。正式手続きは先行して回す。情報部には報告を三日遅らせる」
「はいはい了解。で、またこっちの兵站書類は後回しってわけね?」
「すまんが、優先順位をつける必要がある。セブン・ブライトは我々の“戦略資源”だ」
「ふぅん……戦争を終わらせる駒になると、そう思ってんのか?」
「──とにかく、こちらで確保する」
フリードは苦笑して椅子にもたれた。
「ま、俺はお前がそういう顔するときが一番ワクワクすんのよ。分かったよ。正式書類に一月前の日付で前もって回してました〜ってしてりゃあいいんだよな。任せてちょーだい」
クラウドは小さく頷いた。そして机の上に一枚の申請書を置く。
> 「セブン・ブライト訓練生、東ドグマ司令部配属希望につき即時招集を申請」
その書類一枚が、この戦乱と思想の蠢く灰色の国、アリスドラント公国の物語を始める最初の一枚となる。
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