第3話・鉱山都市《ラフジュアル》へ
軽い睡眠から目覚めると直ぐにカシームは目的地である鉱山エリアへと進んでいく。
鉱山エリアといっても入口にはしっかりとした街があり、
賑わう街の中を歩きながら、採取エリアを目指して移動していく。
その結果わかったことは、採取エリアには目的のアルル草は見つからないであろう事実であった。
採取エリアの山肌には既に無数の穴が掘られ、草木は雑草が僅かに生えているばかりだった。
「ボウズ、もうこっち側にはアルル草は見つからんよ、山肌に見える穴が鉱山で邪魔な草木はみんな取っ払っちまうんだ」
「……はぁ、そうなのか、オッチャン、どっかにいい場所ないか、このままじゃクエスト失敗になっちゃうよ」
「いや、クエストとか、しらねぇよ……だが、魔物が出るエリアなら、まだあるかもな、あそこは未開拓だからな」
鉱夫は少し悩みながら、未開拓地の情報を口にする。
「未開拓地? 魔物が出るのか!」
「あぁ、未開拓地ってのは、聞いたまんまだ。こっち側の鉱物がなくなりゃ調査も開始されるだろうが、今のところはそんな話はないな」
「ありがとう! オッチャン! 行ってみるよ」
「おい、そこはEランクなんかの魔物が出るんだぞ!」
「Eなら多分大丈夫! またな〜」
カシームは走り出していた。鉱夫のいうEランクの魔物は、Fランクの魔物とそう大差はない、実際にE~Gランクの魔物は一括りに低ランクとされており、カシームもそれ程危機感を持っていなかった。
鉱夫から聞いた未開拓地へと向かう際も道を聞く度に口々に「やめた方がいい」「危ないぞ?」「行くなら、色々揃えた方がいい」「無理すんなよ」と声をかけられる。
色々なアドバイスを励ましを貰いながら、更に余った残金で道を教えてくれた店で必要なモノを買って行く。
「ボウズ、悪いことは言わないから、やめたらどうだ? あそこには
「あんがとな、でも準備はしたから大丈夫、それに魔物は何体も倒してるからな」
店の店主に手を振りながらカシームは駆け出していく。
初めての街と初めてのFランククエストにカシームの心は期待とワクワク感に満ち溢れていたのだ。
そして、街の人々から教えられた通りに四時間程歩いた先にそこはあった。
地面が抉れたように地下に向けて広がる岩肌、吹き抜ける風が何処か不気味な雰囲気を醸し出す。
「すげぇ……」ただそういう他ない程に広く、そして壮大な景色にカシームは数秒間その場を動けなくなっていた。
感動と言う感情に身を震わせながらカシームは未開拓地へと降りる為に岩肌の比較的安全そうな場所を見つけながら下に下にと降りていく。
一時間程が経ち、少し開けた岩肌の上で一休みする事を決めたカシームはその場で座り鞄を置く、仮眠前に結んだままになっていたワイヤーを外し、中から果物を取り出し腹と喉の乾きを潤していく。
「……ふぅ、やっぱり広いなぁ、食料の事もあるし、あんまり無理は出来ないけど、今は行けるとこまでいきたいなぁ」
一休みしているカシームの後ろ側、高い岩肌の上から微かにパラパラと小石が落下する音に慌てて上を確認する。
カシームの頭上の岩肌には全身が灰色の毛に覆われた二本の太い角を頭に生やした《グレーゴート》が三匹おり、カシームをその黄色い瞳でしっかりと見つめていた。
「……ヤバいやつだよな、これ……」カシームは直ぐに鞄を肩にかけると身構えた。
その瞬間、先頭の一匹が勢いよくカシーム目掛けて岩肌を駆け出していく。
分厚い
「クソッ 掛かってこい!」
直ぐに使い慣れたナイフを握り向かってくる
向かって来る勢いに合わせて横に回避しナイフを勢いよく
しかし、硬い皮と剛毛により、ダメージにならない。
予想外の反撃に
「硬すぎるって、慣れてない武器の実戦はまだ避けたかったけど、ナイフじゃダメだ」
慌ててナイフをベルトに収めるとそのまま、ワイヤーがついたままの短剣を抜き再度、身構える。
両者が互いに見合っている最中、岩肌を更に二匹の
最初の一頭と違いそれに気づいた時には既に距離を詰められており、カシームの横から勢いよく突進が決まる。
「うわぁぁぁーーーッ!」
突撃され、勢いよく谷底に落下するカシーム、しかし、落下するにつれて、全身に柔らかく生い茂った木々が次々にぶつかっていく。
木々の間を抜ける度に全身に痛みが走るが落下の勢いはその度に軽減していき、木々の先には大きな湖が存在しており、水面に落下した瞬間、カシームは自分がまだ生きている事実に安堵する。
「た、助かったのか……死ぬかと思った」
カシームは陸に上がると濡れた服を脱ぎ、鞄に入っていた火付け石で暖を取る。
火付け石は
落下した際に握っていた短剣も盗難防止にワイヤーをつけていたことで直ぐに回収ができた。
落下の際もこのワイヤーが微かに引っかかり勢いをころしていたのだと気づく。
「もし、ワイヤーとかなかったら、本当に死んでたな、しかし、どうしようかな、上がれるかなこれ?」
谷の底からは僅かに光が見える程度であり、その僅かな光からカシームは自身がどれ程深く落下したのかを理解せざるを得なかった。
しかし、僅かな希望がある事実はカシームの足を前へ前へと進めていく。
「とりあえず、食料を探さないと、オレは冒険者なんだ、水は湖の水を使えば大丈夫だろうし、よし!」
カシームは歩き出した。地上を目指してなんとか登れる場所がないか、食べれそうな物はないか、すべてが手探りながらも諦めずに突き進む。
二時間程、歩いた先に数人が横並びで入れる程度の洞窟を発見する。
カシームは先ず、洞窟の中にその場にあった石を勢いよく投げ入れる。
いきなり入って魔物や獣と出会い頭に戦闘になるのを避ける為だ。
石は洞窟内でコツンッと音を鳴らすが、魔物や獣が飛び出して来る気配はなかった。
安堵したカシームは少し待って変化が無いことを再確認すると洞窟へと足を踏み入れる。
入口から中に入った瞬間、全身を風が引き抜けていく感覚、その後、身体に水が、まとわりつく感覚が走る。その瞬間、カシームは全身を震わせた。
「今の感覚、まさか、此処……ダンジョンなのか」
ダンジョンかもしれないと思った途端、全身に寒気を感じ、ただならぬ不安が足元から全身を包み込むように上がってくる。
底知れぬ恐怖、魔の巣窟、入れば生きて帰れぬかもしれない死へのいざ鳴り、そして、一攫千金と名誉、自身が強くなれる場所、冒険者として生きていく際に聞かされたダンジョンと言う存在にあてられた複数の言葉が頭の中で渦をまく。
数分の沈黙をおえて、カシームは再度洞窟の中へと向かう事を決める
その前に持ち物を再確認すると、入口付近に落ちていた木の棒を数本拾い背中にワイヤーで結ぶ。
そしてダンジョン内へと歩き出す。
入口から離れるにつれて、次第に視界から光が薄れ闇へと変化していく。
魔物に警戒しながら歩みを進めていく。ダンジョンであろう洞窟に入って数分、カシームはダンジョン内で背中に結んだ木の棒に服の一部を破き、野営の際に使う油瓶の栓を開けて巻き付けた布にかける、火打ち石で火を灯し松明を作ると奥に進んでいく。
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