第19話
エルナと別れたカテルナは再び、書庫の前の広場に来ていた。
じっくりとその外観を見つめる。もともと古い建物なのだろう、緑色の屋根はあちこちペンキが剥げている。同じく老朽化した赤レンガ。よく見ると窓のところどころにヒビが入っている。
視線を下のほうに向けると壁に這うように木の蔓が伸びている。近づいて触ってみると、枯れてしまっていて、ぼろぼろと簡単に崩れてしまう。
「さて、どうしたものか……」
諦めるか、力まかせに侵入するか。昼間からずっと考えていたことだった。
諦めるのなら、一年間、きっちりと授業を受けて、ちゃんとした許可を受けて書庫に入る。
力ずくなら、何とか進入経路を見つけて、必要な本を少々拝借する。
どちらにせよ、確実に必要な情報が手に入るかは疑問だった。書庫にビナスの宝玉の情報があるとは限らないし、なにより、一年間、授業を受けて上位十名には入れるかも微妙なところだ。カテルナだけならそれも可能なのだが、エルナが魔法を使えないというのはかなりの問題だった。
「――と、なると……」
書庫に侵入するのがもっとも手っ取り早い。少なくとも必要な書物が早い段階であるかないかが特定できる。
だが、管理人のアーツが言っていたように、あそこにはほかの書庫と違って、危険な魔導書なども置いてある。セキュリティも厳しいものになっているだろう。
自分の身長では、誰かに変装するのは難しいし、ラフィーネでは調べる本の種類もわからないだろう。
扉も、触った感じではかなりの防御性能を有していると推測できる。おそらく、何らかの障壁が幾重にも重ねられているのだろう。壁も同じような細工がなされていると見て間違いはない。
扉を破壊しようにも、障壁の耐久を超える魔法をぶつければ、その摩擦で中の書物も同時に吹き飛んでしまう。できることといえば、障壁を一枚ずつ解除していくことくらいだが、これも、素人に解けるほど簡単なプロテクトなわけでもなく……。
「お手上げじゃんか……」
許可を受けて入るのと、不法に侵入するのを天秤に掛けて、リスクが少ないのはどちらだろうか。
そこを考えるとやはり、許可を受けて入るほうが安全ではある。それにかかる時間が問題ではあるが、下手に不法侵入がばれて、学園を退学になるくらいなら、一年、我慢したほうがいいのかもしれない。
もし退学になったら、せっかく学校に入れたラフィーネは私をどういう風に思うだろうか。
――考えるだけでも恐ろしい。
それにエルナのこともある。もし上手く侵入できたとして、エルナのことをほったらかしにして、ビナスの宝玉を探しに行くことが果たして自分にできるのだろうか。
特に仲が良くなったわけでもない。本当のことを言えるわけでもない。友達なのかと聞かれると、上手く返事できないだろう。
だけどこのままにしておくことが間違っているということはわかる。
私がここを去れば、またエルナは一人になるのだろうか、あの広い部屋にたった一人で……。
――白い壁。嵌め殺しの細長い小さな窓。広いへやにたった一人で。たくさんのおとな。うごかないからだ。くるってしまいそうなまいにち。
「!」
カテルナは大きく頭を振って、頭に浮かんだものを消し飛ばした。
「――何でいまさら……ずっとわすれてたのに……」
もう一度軽く頭を振って、気を取り直す。
「重ねちゃってるのかなぁ。自分のことと……」
ふと呟いて、空を見上げると、空高くに鳥がゆったりと飛んでいた。カテルナは立ち止まって、行く鳥を見えなくなるまでじっと見守っていた。
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