第35話
「今日はよろしく頼む、深洞さん、静流さん、駆瀬さん」
麗沙さんが凛とした声で俺たちに声をかけてきた。機動隊支給だっていう武器以外は、何の変哲もない探索者の装備なんだけど、佇まいがなんだか騎士を彷彿とさせる。…機動隊員だけど。
で、なんで麗沙さんが俺たちと一緒にいるのかっていうと、話は数日前に遡る。
◇
「『ダンジョン災害シミュレーションのデータ収集員』…ですか」
目の前で真剣な表情で資料を広げている麗沙さんの言葉を反芻する。
「はい、大規模なダンジョン災害が起きた際、機動隊や自衛隊だけでは十分な対処ができない可能性があります。そこで、IR-DMAとしては静流さんや深洞さんのような一級探索者の皆様と連携することで、事態に対処するためのシミュレーションを行いたいのです。そのためのデータ収集にご協力いただきたい、という依頼になります」
「でもなんで俺たちなんですか?」
「それは先日トレインされた100体を超えるゴブリンの群れをたった3人で殲滅できたという報告があったからですね。これだけの戦果を出せるのは1級探索者でも一握りですから」
丁寧だし、筋が通った説明だ。
万が一のスタンピードのようなダンジョン災害に備えるというのは確かに必要だろし、力を持った探索者に協力を依頼するというのも当然といえば当然の話だ。
「あと、今回私が同行するのは突発的な実災害への緊急介入指揮を執る際に、皆様の実力を直接把握しておく必要があるからです。万が一の際に、最も効率的な対応を取るためにも、現場での正確な判断が求められますから」
麗沙さんはまっすぐに俺の目を見てくる。
その瞳の奥に、強い責任感が見えたような気がした。
「…わかりました。残りの2人に相談してみます」
満足そうにうなずく麗沙さん。
しかし、2人とは「また一緒にダンジョン潜りましょう」って約束しただけであって、正式にパーティ組んだわけではないんだよなぁ…
こんな話を持っていって「一回ダンジョン潜っただけでパーティメンバー面するとかキモい」とか思われないだろうか?
◇
Side:獅子ヶ関 麗沙
「今日はよろしく頼む、深洞さん、静流さん、駆瀬さん」
そう挨拶しつつ、私は数日前の朔との会話を思い出していた。
◇
「――以上が任務の詳細だ。というわけで、麗沙、宜しく頼んだよ」
モニターに映し出された、3人に関する何かのグラフを眺めながら、朔は淡々と告げた。彼女の表情はいつも通り冷静で、何を考えているのか読み取れない。その声色は、まるで他人事のようにさえ聞こえる。
「『突発的な実災害への緊急介入指揮に備えて、彼らの実力を把握しておく必要がある』、ですか。随分と大層な理由ですね、朔」
私は、目の前の資料に視線を落としながら、挑むように言った。私の言葉には、どこか、朔の真意を探るような響きが含まれていたかもしれない。彼女が立てた「表向きの理由」が、どこまで本気なのか、私自身も測りかねていたのだ。
「大層ではない。合理的な理由だ。君の立場を考えれば、それ以外の名目では、彼らとの同行の必要性は薄くなってしまう」
朔はそう言い切り、わずかに口元を緩めた。その表情は、どこか楽しんでいるようにも見える。
「それに今回は『感情が魔力に与える影響』も確認する必要があると言っただろう?駆瀬 燐の公式記録をごまかした以上、それを知っている麗沙にしか頼めないじゃないか」
確かに、駆瀬さんが目を付けられないよう、公式記録を450MUという1級の合格ラインより少し高い程度にしたのを知っているのは、今のところ私と朔だけだ。
そして、駆瀬さんのような規格外の魔力を持った理由のを探るということも理解できるが…
「…もしかして、任務にかこつけて3人の関係の変化を報告させたいだけなのでは?」
「失敬な。これはあくまでダンジョン対策における『未知の変数』の解明のためだよ。…まぁ、それに付随して興味深い人間関係の進展が観察できるかもしれない、というだけの話だよ」
全く…本当に朔はブレないな。
まぁいい。本来の目的であるあの件の重要人物である駆瀬さんの警護のためにはなんとかして近づかなければならないのだ。
朔の趣味や、深洞さんと静流さんのことをダシにしてしまうことには目をつぶるとしよう。
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