第31話

「…ここで合ってる?」


俺は燐さんに渡された書類に記された住所と、目の前の門を交互に見た。書類には確かにこの場所が示されている。


「…はい、ここだそうです…」


燐さんも不安そうに、門に掲げられた看板を指差した。そこには、仰々しい文字でこう書かれている。


「警視庁 第七機動隊・第十機動隊/IR-DMA 安全管理部 分室」


警視庁…機動隊…、別に悪いことしたわけではないんだが、なんか気後れしてしまうな…


門の脇に立つ警備の警察官に声をかけると、彼は「ああ、探索者の方ですね」と慣れた様子で無線を取り出した。数秒のやり取りの後、「IR-DMA 安全管理部分室へどうぞ」と指差される。案内されるのは、奥に見える小ぎれいなプレハブのような建物だ。


機動隊の方に案内されなくてよかった、と内心で安堵の息をつく。だが、すぐに別の疑問が頭をもたげた。


「しかし、なんで機動隊とIR-DMAが一緒の敷地内に?」


俺が首を傾げると、横にいた静流さんが落ち着いた声で補足した。


「第十機動隊はダンジョン発生後に新設されたダンジョン関係を専門に扱う部隊で、IR-DMAと連携しているらしいですよ。第七機動隊が同じ場所なのは場所の確保ができなかったからだとか」


「へぇ、静流さんは詳しいな」


俺が感心して尋ねると、静流さんは少し困ったように眉を下げた。


「実は、明鏡院流の師範と何度かここへ講師として招かれたことがあるんです。ダンジョン内での体術指導とか、魔物の動きへの対応とか……その時にここにいる小隊長さんから教えてもらったんです。機動隊と普通の警察官の違いとか」


「機動隊と普通の警察官の違い、ですか?」


燐さんが静流さんの言葉に反応した。


「はい。機動隊はデモ鎮圧や災害派遣など、集団で迅速かつ組織的に動くための専門訓練を受けているんだとか。普通の警察官が扱うような日常の犯罪捜査とは性質が異なっていて、より危険な事態に備えた特殊な装備や訓練が施されているそうです」


静流さんの説明に、俺と燐さんはなるほど、と頷いた。彼女もこの場所に何度か来ていたというのは意外だったが、確かに明鏡院流の技術が活かされる場だ。


目的地に到着し、プレハブのドアを開けると、中には見覚えのある顔があった。あの「売り子」の逮捕劇の時にいた獅子ヶ関ししがせき 麗沙れいささんだ。


「麗沙さん、お久しぶりです」


静流さんが一礼すると、獅子ヶ関さんも小さく頷いた。

さっき話してた色々教えてもらった小隊長さんって獅子ヶ関さんのことだったりするのかな?


「静流さん、ご無沙汰しています。まさか、深洞氏までご一緒とは。これはまた面白い巡りあわせですね」


そう言って、麗沙さんの視線が、俺と燐さんに向けられた。


「でも確か麗沙さんは、第十機動隊の小隊長では?」


静流さんが訝しげに尋ねる。麗沙さんってIR-DMAじゃなくて機動隊の人だったのか…まぁ確かに逮捕とかしてたしな。


その言葉を聞いてか、燐さんが俺の服をぎゅっと掴んだ。

その顔は青ざめており、小声で「やっぱり逮捕されるのかも…」と呟いている。


そんな燐さんの様子を見て、麗沙さんは小さく笑った。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。私はちょっとした用事でここに来ただけだから。今はただの留守番だよ」


麗沙さんの言葉に、燐さんの表情が少しだけ和らいだ。その時、ガチャリと部屋の奥の扉が開き、白衣を着た女性が缶コーヒーを2本持った女性が入ってきた。眠そうな目をした、大き目の眼鏡をかけた背の低いショートカットの白衣を着た女性だ。


「ほら、彼女がIR-DMA職員の神無坂かんなざか さく。ここの部屋の主だ」


麗沙さんが紹介すると、神無坂さんは無言で缶コーヒーを麗沙さんに一本渡し、もう一本を自分で開けて一口飲むと、こちらを一瞥した。


「ああ、来たのか。測定ならこっちだ。来てくれ」


神無坂のぶっきらぼうな口調に、燐さんの肩の力が少し抜けたのがわかった。なんだか拍子抜けした、という感じだろう。


神無坂に促され、部屋の奥にある測定装置へと向かう。装置は以前俺が入ったものと同だな。SFチックなカプセルみたいな形をしてる。


「じゃ入って」


神無坂さんはやっぱりぶっきらぼうだ。燐さんは言われるがままに中に入った。燐さんにむけて2、3指示があり、俺の時と同様に測定はすぐに終わった。


「はい、じゃ結果は後日郵送するから。お疲れ様。帰っていいよ」


神無坂さんはそう言い放つと、もうこちらには見向きもせず、自分の机に戻っていく。


「え、これで終わり、ですか?」


燐さんは呆然とした様子で呟いた。静流さんはクスッと笑いながら、燐さんの肩をポンと叩く。


「では、せっかくここまで来たんだし、行きがけに話していたピザ専門店に行こうか」


俺の言葉に、燐さんは「はい!」と元気な声で答えた。静流さんも笑顔で頷く。


さて、今はとりあえず美味しいピザで今日の打ち上げと行こうか。


しかし、魔力測定の結果がどうなのはかちょっと気になるなぁ…でも個人情報だし突っ込んで聞くのもなぁ…




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設定集に

・設定:第十機動隊教範/ダンジョン領域における治安維持と捜査の基礎

を追加しました。


https://kakuyomu.jp/works/16818622175361660166

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