第37話茜

【人に絶望したからだよ】

 そう、あたしこと……茜の主様はそんなことを言った。

 非常に澄んだ笑顔で……とても、純粋に。

 あたしと、そこにいる式神に向けてそんな事を言った。


 なんてことを……この神の目の前で言うんだ……

 まあでも……確かに、あたしもこいつと一緒に居たらその気持ちが分かるようになってしまった。

 どうしてだろうな……

 飼い主に似るというのか。


 いや、こいつが飼い主かどうかしてる。

 ただ利害が一致しただけだというのに。

 あたしは何を考えているのやら。

 ほんとに……自分に呆れてしまうよ。


 そういうことが何度も何度もある。

 だから自分が嫌いなんだ。

 こいつも嫌いだし……

 それに、今呆然とあいつの話を聞いている式神のことも大嫌いだ。


 ―どうして?どうして、そんなこと言うの?


「うるさいな……あたしは……」


 ―だってあなたは、そんなこと言う人じゃなかったはずでしょ?


「うるさい……だまれ」


 ―茜……


 どうして……こんなにも懐かしく思えるのだろうか……

 やはりあいつが言ってた通り……あたしはこいつの事を知っているのか?


 そんなはずがない……

 あたしは、こいつとは初対面のはずだろう。

 それなのに……なんで……こう、苦しいと思ってしまうのだ……


 ―それは、ウチもだよ……


「うるさい……」


 ―そういうこと、言わないで?ウチは……


「うるさい!!うるさい、うるさい、うるさい!!!」


 どうして……どうして……?

 どうしてそんなに……懐かしいって思ってしまうの……?

 あたしは……あたしは……何者なの?

 あなたにとって……どんな存在なの?


 答えてよ……ねぇ……


 答えてったら!!


『君は僕の茜だ。今は、邪魔をしないでくれるか?』


 それは……そうですね

 申し訳ございません……


『いい子だ。』


 でも……よく分からない……

 ほんとに、主様のものなのかと最近疑問に思ってしまっている。

 だって、あんな態度取ってたから嫌われてるんじゃないかと……思うほどに。


 だから……そろそろ知りたいと思っている

 あたしの正体というのはなんなのかを。


 ―知りたいよね。茜の正体……生まれた意味を。


 そう……言われると、あたしの思考は暖かなものに委ねられていく。

 懐かしいと感じた、あの声とともに……

 何故こんなにも、あたしは……こいつを見るとそう思ってしまうのか……

 それを……解き明かすために。


『まずい……見られてしまう、僕が封じたものが……!!』



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 この事を踏まえて思うのが。

 あたしは、どこから来てどうやって生まれてどうやって主様の元に来たのか。

 まずはそれが、分からない。


 実際、あたしが残る記憶というものは光の弾を誰からか防ぐということ。

 そこから、気づいた時にはもう主様と一緒に居たからよく分かっていないのだ。


 そもそも、あの狼の式神になんの共通点があるというか。

 あたしは、あんなやつ知らないしどうしてあれに懐かしいと思うのか……意味不明だ。


 いや……でも……

 あの弾に巻き込まれてる時のあたし……


『主様!!……ありがとう』


 そんなことを言いながら、死んだような……

 死んだ?それはそれで有り得ない。

 死んだ感覚、記憶、全てがそれをないと否定している。


 ―まだ、思い出さない?


「またお前か!!いい加減に……!!」


 ―気づいてよ……お願いだから!!

 そいつがそう言うと、何か流し込まれた気がした。

 そいつの感情なのか記憶なのか。

 それとも、あたしの生きている意味なのだろうか。


 そんなのは分からないけれど、あたしは……それに興味が出てしまっている気がした。

 あたしは……それを見たら全て思い出すのではないかと思ったけど……


「主様はどうして拒むのだろう……そんなに、嫌な事なのかな。」


 今のあたしには何も通じない、ただ興味が出たものに対して忠実な獣だ。

 だからこそ、知りたいんだ。この流し込まれたものの正体を。


 そうあたしは……眩いものの正体を見る……


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『ウチにとって……大切な存在な、愛莉ちゃんと同じ力をもって、容姿で……それで……ウチのことを忘れないようにして欲しいな、でも忘れちゃう時があるかもしれない……』


 なんだこれ……なんで……奴が……

 あたしの、身体を作っている?いや……もう創造し終えて……名前をつけようと、しているのか?


 わけが、訳が分からない……

 なんで、あたしが笑っているんだ……


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『主様っ、これどうですか?』


『よく出来てる、可愛いじゃんっ』

 花の、冠……

 それを、嬉しそうに作って……奴に……渡してるのなんて……

 考えられない……信じられない……


『茜はさ、ウチに会えて幸せ?』


『もちろんです!!幸せですし、この上ない祝福です!!』


『それじゃあウチもいっぱい幸せかなっ!!』


 なんだこれは……

 おかしい……惑わせるために……あたしを惑わせるためにこんなことを!!

『ウチは……大好きだったよ』


『嬉し、い……な……ごめんなさい……主様……』


 こんな記憶嘘だ……

 存在しない……

 するはずがない!!


 ―違うよ、そんなことない。


 じゃあ……お前はなんだ!!


 ―ウチは……茜、貴方の主様だから。


 主様……それは……安倍……道満……そのはず……


 なのに……


 なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……なんで……


 なんで!!


 ―苦しめて……ごめんね。でも、ゆっくりでいいから……思い出してね


 なんで……お前が謝る……

 あたしが、悪いのに……


 ―悪くはないよ、いきなりウチが現れて苦しめちゃったんだから謝るのは当たり前だよ……


 優しすぎるよ……

 どうして……そこまで、あたしに……

 待って今なんて……言った?


 ―まだ混乱してるんだから……いいんだよ、思い出さなくても。


 あなたは……ほんとに……


 ―うん、だから……また会えたら会おうね茜。


 わかった……だけど、その時には……迎えに来て、くれるよね。


 ―……もちろん、そのつもりだよ!!


 良かった……

 あなたになら、嬉しいかも。


 ―ふふっ、ありがとっ。


 こちらそこそ……もう……眠るね。


 ―ごめんね、無茶させて


 ううん、そんなことない。あなたが見せてくれたもの……すっごく懐かしかった。

 そんな気持ちになれたのはあなたのおかげよ……だから、ほんとにありがとう。


 ―うん!!


 それじゃ……また、会おうね……

 その時は、ちゃんと……助けてね。


 そう…………

 誰か……誰かわからないけれどそんな人に伝えて……


 あたしは完全に意識を手放す。


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 倒れた?

 いや、眠ているのか……体力を相当消費させてしまってたから……


 でも、ちゃんと記憶の光を見せることが出来たか……

 奴が夢中になってる今なら出来ると思ったけど予想通り……

 あの子は茜だった。

 でも、混乱してるみたいだけど今のやつには干渉なんて出来ないようにしてるから何とかなってるけど……


 まあ……なんとか成功したか……


「触れさてしまったね、記憶の光を……」

 今更気づいても遅いのに。

 まあ、気づいてないふりをすれば問題ないか。

「……」


「黙った振りをするのはやめた方がいいよ澪、逆鱗に触れる」


「はぁ……やはり、バレましたか。」

 そう言い、ウチは舌を出していたずらな笑みを浮かべた。


 to be continued

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