第35話土地神様と白い陰陽師の再会

「ダメじゃないか、こんな丸わかりの結界じゃ……僕に侵入してくださいって言ってるようなものだよ?」

 やらかした……侵入された……

 しかも鳳凰陣までも破られている……

 これはまずい、ほんとにまずい。


 これはほんとに、やらかしてしまった……

 こんな事になるなんて、全然思わなかったからしょうがない……とは言えないけれど……でも、どうして…どうしてこんなことになったんだ……


 いや……こんなことになったのは、ウチが油断していたからだ。

 ウチの責任だ。


 そう考えているうちに、全身白くてどこか懐かしい声を発するこの男は結界を蹴破り葵ちゃんの家に侵入した。

 その破られていく結界の欠片は赤く煌めき、それが本当に綺麗に見えた。


「澪、あはたは本当にそれでいいのかい?」


「……」

 何も考えるな……

 感じるな……ただ、ウチの後ろにいる葵ちゃんだけを守れればそれでいいじゃないか。

 西園寺家のことなんて本当はどうでもいい。

 勝手に消えて欲しいと思ってた存在だけど……この手で葬れるのならそれでいいと思ってしまっていた。


 まさか……それに、腹を立てたのか?


「正解、その通りさ。僕は、ものすごく怒っているよ。」


「……西園寺家を滅ぼすことを?」


「そうだよ、それは僕がすべきことで貴方はそれを止めるべきなんじゃないのかい?」

 確かに、この子からすればそうだろうな。

 でも、今のウチはそれはしたくない……それは復讐を否定してしまっている気がするからだ。


「復讐……ね。」


「?!」


「葵ちゃん?だっけか君は、そんな事でこの人生を全うしたいの?ほんとに君はこんな事で納得するの?」

 葵ちゃんに……気安く話しかけるな。

 やめてくれ、いや、ウチの思考を読んでいるのなら応えろ。

 何のために来た。

 何のために、葵ちゃんの家に来て、何をしに来たんだ。


「何のため……うーん、そうだな。一言で言えば澪を、連れ去るため?」

 やはりな。


「え?ど、どういうことですか……」

 葵ちゃんがそう尋ねる。

 まあ、葵ちゃんは確かに分からないだろうな。

「葵ちゃん、君は普通の人間とは違うからわかるはずだろう?」


「それは……」

 分からなくていいんだよ葵ちゃん。

 こいつの目的とかを分かって欲しくない、いや分からないで欲しい。

 こいつの考えている恐ろしいことを。


「恐ろしいとは心外だなぁ」


「実際そうだろ」


「まあまあ、でも君の力は危険すぎる。だから僕が連れ去って……」


「協力させようというのだろう?」


「やはり分かっちゃうか」

 分かりやすいんだよ、お前のことは。

 だが……本気でウチを連れ去ろうというのならここは全力で抵抗をするしかないようだな……


「抵抗、できるの?守るべき人がいて」


「……」

 痛いとこを突いてきたな。

 実際、葵ちゃんを守りながらなんて……厳しいことかもしれない。

 でも、ここで負ける訳には行かない。

 だって、葵ちゃんはウチの大切な人だ。

 もう二度と……あんな悲しいことはさせないって決めてるんだ!


「悲しいこと……悲しいことねぇ」


「何がおかしい。」


「可笑しいとは言ってないさ、ただ……現代人がそこに居るから丁度いいと思ってね。」

 その不敵な笑み……


「まさか……」


「何をする気で……」


「逃げよう葵ちゃん!!」

 こいつが何をするのか、一瞬で理解しウチは葵ちゃんの手を掴み、外に連れようと玄関まで行こうとしたが……もう遅かった。

 逃げる前に、光弾か結界で閉じ込めればよかったとか思ってしまったが……


 まあ、こいつには意味が無いのを分かっていてわざとやらなかったんだけどね。


「無駄なのに……廻天、満天の煌めき―」

 奴が詠唱を終えると……

 りびんぐだったここは違う場所になっていた。

 明らかに、ウチやカンナちゃんが作り出す結界とは違うものに思えた。


 周りは星々の煌めきのように輝いていて、とても幻想的に思えた。

 だけど、どこか見たことあるようで懐かしい景色にも思えた。


「どう?僕の固有結界は」


「……悔しいけど、綺麗だよ」


「ありがとう、澪」

 待て、違和感がある。

 ここにいるのはウチだけか?

 手の……感触が無い。

 そう……恐る恐る隣を見てみると……

 葵ちゃんが、いなかった。


 葵ちゃんはどうしたのだ。


 だって……さっきまで手を掴んでいたはずじゃないか。


 まさか……いや、考えるな。

 一緒に結界内に連れ込まれたんじゃないのか?

 ここに居ないということは……そういうことなのか?


「君の予想は不正解だよ。」


「じゃあ……」


「生きてはいるよ、だけど君とは違う空間にいるというだけさ」

 それなら……よかった……

 いや、待てよ。

 まさか、何かを吹き込むつもりで……


「『今から言うことにはもう、質問などは受け付けない。無論、君達二人の意見は僕の話が終わった後に聞くよ。だけど、途中で何かを言うようなら、容赦なく澪を僕の計画に協力させる為に……殺す』」


「理不尽だ……」


「『当たり前さ、それぐらいしないと葵ちゃん、君は黙らないだろう?いやいや、何当たり前かって?君の大切な人が理不尽だ、と言ったから答えてあげただけだよ。でも、もう何も話すな、感じるな、ただ僕の話だけを聞け。』」

 これは、とんでもないものに巻き込んでしまった気がする……

 こんな独裁的なような感じ、ウチは認めない……

 いや、断じてこの子はウチが知るじゃない……


 だから……ここで……!!


「無駄、そう言ったよね。」

 後ろに回り込まれた……!!

 だけど!!

 右脚全体に神力を集中させて……奴の顔面に!!


「思考が見え見えだよ。」


「なっ……!!」

 片手で……蹴りを掴まれた……

 だけど、衝撃波とかが伝わってるはず……それなのにどうして……


「簡単なことだよ。君は弱くなってしまったからさ」

 と、奴の片手から出た衝撃波で前方に吹っ飛ばされた。

 体中痛い……

 いや、痛みを感じるってまさか相当……

 違うな、それは間違ってる……


 これは……確実に神ではなくなったという証拠にもなる……

 認めたくないことが増えてしまった……


「もう、いいかな?」


「ええ……早めに終わらせてあなたを殺す……」

 殺意を剥き出しにしても……何も伝わらないと思うが……

 抵抗くらいはしておこうと思った。


「『わかった、それでは聞いてもらおうか。君達二人はこの国は、守るに値するか?どうか分かるか?結論から言って僕は値しないと思う。』」

 これ……

 前にも聞いたことが……


「『だってそうだろう。この世界には、何も無い。美しいものも儚いものも守るべきであった自然を壊し、発展していったこの東京はどうだ。山岳地帯にたぬきや狐、猿などと様々な動物は都心部から追いやられ、やってきたと思ったら強制的に連れて帰される。そんな場所を日本人は増やし続けている。いい加減、目を覚ましたらどうだ?貴様らはなぜ分からないのだ、なぜ気付かない?そんなヤツらを僕はもう飽き飽きするほど見てきた。だから、もう……諦めたよ……僕は、今度こそこの国を滅ぼし一から新たな国を作ろうと思う。』」


「……それは、だめだよ」


「何故?」


「それでも……こんなことをしてきてもこの国は発展してよりよい国にようやくなれた……だから……」


「それは、澪の理想論だよね。」


「……」

 確かに……そうだな……

 でも、いや……納得はしない。

 絶対に。


 だけど、大切な人を奪い、葵ちゃんを苦しめる奴らを……滅ぼしてもいいじゃないか。


「だからだめだって言ってるじゃん……お姉ちゃん……」


「……っ」

 やっぱり……

 そう言われると、弱いなぁ……

 なんでこう言われると……ウチは……


「だから甘いんだって言ってるじゃん」


「そう……だね……」

 ……しまった!!

 まずい……認めてしまった……!!

 心を……許してしまった!!


「ふっ、かかったね」

 もう、遅かった。

 ウチが、気づいた時には意識を手放そうとしていた。

 やはり……白い陰陽師には油断してはいけない……

 心を許すような事を言われても、委ねてはいけないということを今更理解した……


 ウチは……


 謝りたかったのかな……君の顔を見て、思い出しちゃったよ……

 ほんとに……ウチは馬鹿だよね。


 白い陰陽師の顔を見ながら……懐かしい顔を思い出し、完全に意識を手放した……


 to be continued

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