それでも語りつづける 〜猫耳説教系VTuber物語〜

MAY

Ⅰ. 萌えと説教

第1話:男の娘カフェで秩序を説く坊主?

 〜説教おじさん現る〜


 ネオ大阪の片隅、ネオンに照らされる一軒のカフェ。二十年ぶりに帰国したユタカは、ネオンの海に迷い込むようにして、男の娘たちが接客する『プリズムチェリー』の扉を押した。


 きらめくネオンを背に、ユタカは堂々と店の奥に入る。坊主頭に作務衣姿。異様な風貌で店内を見回す彼に、キャストも客も一瞬、動きを止めた。


「いらっしゃいませ!」柔らかな照明に浮かび上がる、黒髪にワンピース姿のキャストが微笑む。胸元には『マル』と書かれた名札が、かすかに揺れていた。


 ユタカはマルをじっと見た。「マルさん? 男がスカートはくとはな……そないな曖昧な格好しとったら、秩序が乱れるんちゃうか?」


 キャストは戸惑いながらも、笑顔を崩さなかった。「ここは、性別にとらわれず、誰でも自由に楽しめる場所なんです。」そう言って、さりげなく一歩、距離を取った。


 そのやり取りを聞いていた常連客が、鼻で笑った。「おい、そこの坊主! 辻説法でもしたいのか? 外でやれよ!」もう一人がカウンター越しに茶化す。「おっさん、スカート似合うかもな!」


「坊主とは失礼やな。」ユタカは冷たい視線を、常連客に向けた。「自由を楽しむからこそ、秩序は要るんや。性別あやふやにしとったら、みんな混乱するやろ?」


 店内の空気が、一瞬張り詰めた。キャストは、そっと頭を下げた。「あの……でも、みなさん、楽しんでますから……だ、大丈夫です。」


 その言葉に、ユタカは小さく頷いた。「ほな、ええわ。ワシはもう何も言わへん。」そう言い残して、店を出た。


 静まり返った空気が漂う店内で、常連客がぼそっと呟いた。「……何だったんだ、あのおっさん……?」カウンターの向こうでも、別の客が眉をひそめた。「また来るんじゃねえだろうな。」


「またのご来店をお待ちしております。」マルは、ユタカの出ていった入口に向かって小さく一礼した。それから振り返り、常連客に微笑みかける。「みなさん、お酒でも飲んで楽しみましょう。」

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