第2話 サキエ

  ・・・

 誰かが私の名前を呼んでいる。

「スエちゃん、スエちゃん見て! 雪よ雪」

 見ると姉のサキエが窓の外を見ながらスエコの名前を呼んでいます。

 あれ、変だなと思いながらも、堀こたつから這い出してサキエの横に並んで窓の外を見ると。

「わあ! きれい! 積もると良いね」

とスエコは歓声をあげました。

 サキエが嬉しそうに笑いながらスエコに向かって言ました。

「きっと積もるよ、雪ウサギつくって雪遊びしよう!」

 スエコは頭の中で、確か姉のサキエは空襲で亡くなったはずだと思い、それをサキエに問い掛けようとした時に別の声がしました。

「二人ともご飯が出来たよ、お母ちゃんはこれから出かけるから、二人でマモルの子守と留守番を頼んだよ」

と言う母親の声がしました。

 母親が出かけると、二人はちゃぶ台の前に座って向かい合ってご飯を食べました。

 ご飯はいつもの麦飯と野菜の煮付けです。

 食べたあと二人は手早く片付けを済ませると、サキエがマモルを背中におんぶして、スエコの手を引いて外に出ました。

 外は寒かったけれど、子供たちだけの留守番なので火鉢に小さな炭を熾していただけだったので、家の中もさほど暖かくはありません。

 寒さよりも、二人はずっと降り続いている雪で、地面が白い絨毯を敷いたようになっている外を見て、その上を歩いてみたかったのです。

 二人は雪の上に足跡を付けながら、裏の空地へ歩いて行きました。

 辺りを見回すと、周りの家の屋根も地面の草も雪をかぶって全てが白くなっています。

 低く垂れこめた雲でまわりの景色は薄暗くなっているので、まるで雪国に来たような気持ちになり、スエコが景色に見とれて、

「お姉ちゃんきれいだね」

と言うとサキエも、

「本当にきれいだね、でもどれだけ降るんだろう」

と言って、空を見上げながら降り続ける雪を見上げていました。

 そして突然、

「スエちゃん上を見て!」

と叫んで空を指さしました。

 スエコがあわてて指さした方向を見上げると、空の遥か上の方に小さな丸い点が見えます。

 見ているとそれはだんだんと大きくなり、ついには「ドサン」という大きな音とともに、大きな雪の塊が二人の前に落ちてきたのです。

 落ちてきた雪の塊の破片が二人を弾き飛ばして、二人は尻餅をついてしまいました。

                             つづく

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