第2話

「土井ゆかり、二十六歳。宮城県仙台市在住。実家暮らしをしていて家族は両親と兄がいる。父は建設業。母は広告業の事務員として勤務している。


 兄も源研究所の研究員だ。緑聖高校卒業後、進学せずフリーターをしていたそうだ。当初から精神疾患を疑われていたため精神鑑定を行なったが、責任能力ありと判断されている」


「あの事件の詳細は少しずつ出てきていますが、気になるっすね。俺が取材してきてもいいっすか?」


「……ああ、構わない。どうせお前のことだ取材したいと言ってくると思ってたからな」

「なんだ、分かってるじゃないっすか。じゃあ、ちょっくら行ってくるっす」


「佐光、取材をするならしっかり資料を読んでおけよ」

「ハイハイ」


 そういって俺は今回の事件の犯人である土井ゆかりを取材するため、上司の多田さんから書類を受け取りカメラといつもの取材セットを持って部屋を後にした。


 俺の名は佐光基弘。


 自分で言うのもなんだが、身長は程々に高く、痩せ型で見た目はいい方だ。


 現在週刊誌の記者として日々慌ただしく動いている。俺は少しばかり他の奴より好奇心が強い。出版社に入社できたことは俺にとっては幸運でもある。


 気が多い俺は記者として毎日取材に出かけ、芸能人のスキャンダルや大物政治家の影の部分を暴き出すことに喜びを感じている。


 俺が取材に向かうのは三か月前に世間を騒がせたコンサート無差別殺人事件だ。


 某アイドルグループのコンサート内でそれは起こった。犯人は舞台中央のやや後ろの席に位置しており、会場が最高潮に達した時に容疑者の女は隠し持っていたナイフを振り回し、刺し始めた。


 悲鳴と共に観客が逃げ、駆けつけた警備員によって取り押さえられ警察に連行されようやく事態は沈静化に向かった。


 あの事件で1人の死者を出し、未だ意識がない人もいる。


 事件後すぐに俺は犯人の女に取材を申し込んだが、警察の方から拒否されてしまった。


 まあ、これは仕方がないことだ。


 手紙は検閲されるが、中身が問題ないようであれば渡されるので俺は土井ゆかりに手紙を送った。


 どうやら時間を持て余しているらしく彼女からはすぐに手紙の返事が返ってきた。


 突然核心を突いても話してくれないだろうと考えた俺は留置場での生活はどうかを聞いて困っている事があるかどうか聞いてみた。


 彼女は短い分だったが、素直に答えてくれている。


 どうやら俺が困っていることを聞いたことがとても嬉しかったと書いてあった。


 彼女の人物像を探るうえで取っ掛かりになるかもしれない。


 そこから俺は少しずつ距離を縮めるように雑談を書いた手紙を送ることをはじめ、三か月が経った。


 土井ゆかりはどういった人物なんだろうか?


 土井ゆかりからの手紙は少しずつ彼女の内面が見て取れるようなことが書かれるようになってきた。


 彼女の手紙によると、事件から既に三か月が経っているのにも拘わらず、家族は一度も面会に来ていない、連絡もないと書いていた。


 まだ核心部分を質問する内容はしていないが、彼女の置かれた家庭環境はあまりよくないのだと彼女の手紙から読み取れた。


 毎回手紙に母の愚痴が書かれている。


 たまに兄の愚痴も書かれてはいるが、どこか気を使っている様子は見て取れる。そして父のことは何一つ書かれていない。


 彼女の中では母の存在が大きいのかもしれない。


 愚痴は書かれているが、楽しかったことや嬉しいかったことが少ない。


 円満な家庭とはほど遠いものなのだろう。


 その辺を重点的に調べて記事にしていくのがよさそうだな。



 記事を書く内容を大まかに検討した後、俺は上司から貰った資料を基に詳しい話を聞くために怪我人が運び込まれた北八幡病院へと向かった。


 怪我人が運ばれた当時は救急車が何台もロータリーで待機し、取材陣が殺到して病院は物々しい雰囲気だった。


 今は事件などなかったかのように普段の病院に戻っている。というのも俺は怪我人が運ばれた直後にここへ取材に来ていたからだ。


 その時の様子は駆けつけた家族、病院を訪れている人達が入り乱れ、患者家族に配慮するため病院側が規制を設けて医院長の会見だけに留まっていた。

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