炒飯へ挑戦、君へは内緒

Mao

⇨Side Io


「炒飯を作ろうと思う」


伊桜が口にした言葉は、疾風にとって口をあんぐりさせるには十分な一言だった


現在学校帰り、伊桜の家。木造建築で出来た築何十年も経つ、古びたアパート。錆びた階段を登った先。二階の1番奥の部屋が伊桜の城だ。その狭い六畳間にて。


疾風は手近にあったので何気なく読んでいた少年向けの漫画雑誌をパタリ、と音を立てて軽く閉じると、伊桜に言った


「伊桜、料理出来ねぇじゃん」


「今日なら出来る気がすんだよ」


何を根拠に言っているのだ。この男は。と思った


疾風は思わず皺の寄った眉間を右手で押さえて溜息を吐く。

そして『どうして急に炒飯なんだ?』と訊ねる。すると伊桜は『羽羅さんの炒飯が凄ぇ美味かったから、俺も作れるようになりてぇ』と言うのだ。

因みに羽羅というのは疾風の兄のことだ。此間の学校からの帰り道、余りにも腹っぺらしな友人を見兼ねて家へ連れて行った事がある。

その時に丁度美容院の定休日で暇を持て余していた兄の羽羅が、手料理を奮ってくれた。…のだが、その時に出された炒飯が伊桜にとっては余りにも美味しかったらしい。


「羽羅さんの料理がまた食いてえ」


それ以来ずっと此れだ。

その為、一人暮らしで貧困な伊桜が腹っぺらしになると、決まって疾風の家へ来て、美容院の仕事のシフトが入っていない日の羽羅がブウブウ文句を垂れながら簡単な料理を作り(勿論疾風も手伝うが)三人で間食とも夕食とも言えぬ料理を男三人で食卓を囲む…という謎の習慣が出来上がってしまったのだ。


「本当に珊坂クンが貧困でご飯食べれなくなった時だけ作ってあげるわ。けれど、それ以外は家に連れてきたら嫌よ」


そう疾風に言って睨む羽羅は兄として、顔が非常に整っているせいか、流石の疾風も少し怯むが「だってアノ子が居たら疾風と二人の時間が作れないじゃ無い!ただでさえアタシの仕事は忙しくって休めないの知ってるでしょ⁉︎」そう言って大型犬の様に抱きついてくる兄である羽羅。


正直、伊桜に言ってやりたい。

お前の言う羽羅サンとやらはそんな凄い人じゃないぞ。と。

そう言うと此奴は


「美味い料理を作れる奴は凄ぇ人だろ」


とどうせ言ってくるので、疾風も色々諦めているのが、悲しきかな現状であった。



閑話休題


「じゃあ、やれるもんならやってみろよ」


疾風がなんとなし投げやりに言ってみれば


「やってみる」


と言うので放っておく。

因みに此処で疾風が手伝いを申し出ると、一人で出来る。と途端不機嫌になるので、まったくこの男は非常に扱い辛いと思う。


何故こんな男が女子に人気なのか、顔なのか、成績なのか?と疾風は心の中で一人ごちた。


パラパラパラパラッ…

伊桜が台所へ足を運んでから、数分後、狭い台所で米が床に舞い散る音が聞こえた気がして、疾風は膝に手をついてゆったり立ち上がると台所へ向かうと、案の定床に焦げた米が舞い散っていた。

疾風の存在に気がついた伊桜はフライパンを両手に持った状態で「あ」と一言だけ溢し、終始無言になる


「…」

「伊桜、何をしようとしたんだ?」

「…羽羅さんの炒飯みたいに、パラパラふわふわにしたくて、フライ返しに挑戦した。そしたら失敗して米を散らかした。」


「おまえは馬鹿なのか」


疾風はそう言うと凄い勢いで床に舞い散った焦げた米を拾い集め、見つめるとゴミ箱へその残骸を捨てた。其れを見ていた伊桜は何か物言いたげに無言で床を見つめていたが、疾風が素早い勢いで、伊桜の両手からフライパンを奪った事により事態は好転する。伊桜が驚いたのか目を見開く。


「あ」

「馬鹿は言い過ぎたな、悪かった。」


「…別に気にしてねぇ」

「料理苦手な奴が慣れない事をやろうとすんな、いきなりやっちまったから御米サンも困っちまって、焦げちまったんだろうから、気にすんな」


「御米さんて…。米にサンつけんの?」


「笑いたきゃ笑っとけ!ほら、作んぞ!忘れてるだろうけど此の米、俺も多少金出したんだからな!」

「うわぁ、ケチくせぇ」


「趣味が節約って公言してる、おまえにだけは言われたくねぇわ!」


そう言って疾風が慣れた手つきで、余った白米と少しだけフライパンの上に残った焦げた米を混ぜ合わせる。

栄養バランスも考えてピーマンを付けたそうと考え、冷蔵庫へ疾風が迎えば、伊桜は疾風の肩に手を置いて『ピーマンとパプリカの違いが分からない』と首を傾げたので、疾風が思わず噴き出してしまったのは仕方のないことだと思う。



「出来たー!」


「食う」


感想は各々だ。結果、炒飯は完成した。


疾風が作業の殆どを受け持っていた気もするが、其処は御愛敬というものだ。

シンプルな皿に盛り付けられた、少し焦げ付いた炒飯を見て、伊桜はスプーンを利き手の左手に取り、スプーンに未だ茹だったままの其の御馳走を乗せると、口に入れた。


「…パラパラふわふわじゃねえ」


「でも美味いだろ?」


「…あぁ」


今迄食べた中でいちばん美味しいかもしれない



そう目前で男は優しい笑顔で宣うものだから、疾風は思わず面食らってしまった。


「…失敗したから、美味くなったんだろ」


「あ"?何だよソレ、俺だって次は失敗しねぇし、美味く作れるに決まってる」


「はいはい、ワカリマシタ。じゃあ、次も頑張れよな」


「馬鹿にしてんのか」


「馬鹿にしてない。さ、冷めない内に食うぞー」


すぐ調子に乗るから疾風は伊桜に絶対に言ってやらないのだ。


羽羅が作った炒飯より、此の焦げた炒飯の方が何倍も美味しく感じたことなんて、絶対に口が裂けても言ってやらんのだ。






おまけ


「疾風〜、今日は炒飯よ」

「ん…」

「どうしたの?もしかして不味かったかしらっ⁉︎」

「否⁉︎違くて!その、前、伊桜ン家で食った炒飯が美味かったなぁーって…」


「…なんですって?」

「(あ、やば…)」


「疾風、珊坂クンに『今度お家に遊びに来てっ』てアタシが言っていたって伝えておいて。…世界でイチバン美味い炒飯作って置いてやるからよォ…ッ!」


「ひっ、はっはぁい…」


羽羅兄ちゃんは

珊坂伊桜クンが地雷らしいです。

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