第13話:バーチャル喫茶・春風で、ちいさな夢をひとつずつ。
カランコロン。
夜のバーチャル喫茶・春風に、
やさしいベルの音が響いた。
初配信のお祝いをしたあと、
私たちはカウンターに並んで、
あったかい飲み物を手にしていた。
ふわりと香る、ハーブティー。
甘いミルクティー。
カフェオレの湯気。
どこか、
ほんのり特別な空気が流れている夜だった。
そんな中、
ぽつりと、あかりちゃんが言った。
「……私、今度、歌ってみた動画を出してみたいなって思ってますっ。」
私は、
ぱあっと顔を輝かせた。
「すごいですっ! 絶対素敵ですっ!」
あかりちゃんは、
顔を真っ赤にしながら、ちいさく笑った。
「まだ、すごくへたっぴなんですけど……
でも、チャレンジしてみたくて。」
ユウくんが、
カフェオレを一口飲みながら、にかっと笑った。
「最初から上手な人なんていないよ。
やってみるって、すごいことだよ。」
あかりちゃんは、
ちいさく「はいっ」とうなずいた。
花音ちゃんも、
カフェラテを両手で抱えながら、
ぽつりと口を開いた。
「私も……いつか、コラボ配信してみたいなって。」
「コラボ配信!」
私は、目をきらきらさせた。
「楽しそうですっ!」
「でも、すっごく緊張すると思うから……
今は、少しずつ、仲良しさんを増やしたいなって……。」
花音ちゃんの声は、
とても小さかったけれど、
その瞳は、ちゃんと未来を見つめていた。
ハルノさんは、
コーヒーを静かに飲みながら、ふっと言った。
「俺も、また何か作ろうかな。
今度は、誰かのために。」
ユウくんが、
ぱちんっと指を鳴らした。
「それ、いいな!」
私は、胸がぽわぽわするくらいうれしかった。
みんなが、
それぞれ自分のペースで、
新しい一歩を考えている。
──すごいな。
私は、
心からそう思った。
「りるむちゃんは、何か考えてる?」
ユウくんに聞かれて、
私ははっとした。
──私の、次の一歩。
少しだけ迷ったけれど、
ちゃんと胸を張って言った。
「私は──
もっとたくさんの人に、春風を届けられるVTuberになりたいですっ!」
カウンターの向こうで、
店長さんがふわりと微笑んだ。
あかりちゃんも、
花音ちゃんも、
ユウくんも、
ハルノさんも。
みんなが、うなずいてくれた。
「きっとなれるよ。」
「絶対だよっ!」
「応援してる。」
「楽しみにしてる。」
ジュワジュワと、
胸のなかに、あたたかい音が満ちていった。
春風喫茶店。
ここで出会ったみんなが、
それぞれ小さな夢を持って、
ちいさな芽を育てようとしている。
──また、あしたも。
誰かの今日に、
そっと春風を届けられますように。
私は、エプロンのすそをぎゅっとにぎった。
春の香りといっしょに、
ちいさな夢たちが、そっと店内に舞った。
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