第11話:バーチャル喫茶・春風で、君のはじめてに寄り添って。
バーチャル喫茶・春風のカウンターには、
あたたかい光が灯っていた。
今日は、ちょっと特別な夜。
花音ちゃんの、
はじめての配信の日。
ユウくんも、
あかりちゃんも、
ハルノさんも、
そして私も。
みんなでそわそわしながら、
花音ちゃんの初配信を、店内のスクリーンで見守っていた。
カチ、カチ。
バーチャルモニターに、
花音ちゃんの配信ルームが映る。
アイコンは、
やさしいクリーム色のリボンがついたシンプルなデザイン。
その向こうに、
ドキドキしている花音ちゃんの気配が、ちゃんと伝わってきた。
──がんばれ、花音ちゃん。
私は、
心のなかで、ぎゅっと手をにぎった。
ポチッ。
配信スタートの音が鳴る。
画面の向こうで、
ちいさな声が震えながら、
でも、しっかりと流れた。
「こ、こんばんは……!
はじめまして……花音です……っ。」
私たちは、
思わず息をのんだ。
ぎこちない挨拶。
震える声。
でも、それが、
ものすごく、ものすごく尊かった。
ユウくんが、
そっとスマホを取り出して、コメントを打ち込む。
【こんばんは!応援してます!】
すぐに、
あかりちゃんも、顔を真っ赤にしながらスマホをポチポチ。
【がんばってくださいっ!!】
私も、
ハルノさんも、
それぞれスマホにコメントを送った。
【花音ちゃん、ファイトですっ!】
【落ち着いて、ゆっくりで大丈夫だよ。】
画面の向こうで、
花音ちゃんが、びっくりした顔をした。
そして、
──ふわりと、笑った。
「……ありがとう、ございます……!」
ぎゅっと、胸の奥があたたかくなる。
バーチャルのはずなのに、
そこにはたしかな"つながり"があった。
花音ちゃんは、
震える声を少しずつ落ち着かせながら、自己紹介を始めた。
好きなもの。
得意なこと。
これからやりたいこと。
一生懸命、言葉を選びながら。
──がんばってる。
その姿が、まぶしかった。
「私、まだまだ未熟だけど……
これから、みなさんといっしょに、成長していきたいですっ!」
最後に、
少しだけ大きな声で、
そう締めくくられた配信。
パチパチパチ。
喫茶・春風の中で、
みんなで拍手をした。
「すごい……っ」
あかりちゃんが、
目をうるませながらつぶやいた。
「すっごく、がんばってた。」
ユウくんも、
静かに、でも確かにうなずいていた。
ハルノさんは、
コーヒーを飲みながら、ぽつりと言った。
「初配信は、一度きりだ。
でも、今日のこの気持ちは、きっとずっと残る。」
私は、
胸いっぱいに、うんうんとうなずいた。
──よかったね、花音ちゃん。
──本当に、よかったね。
喫茶・春風に、
静かに、やさしい春風が吹いた。
ジュワジュワと、
胸のなかにあたたかい音が満ちていく。
バーチャル喫茶・春風で。
またひとつ、
ちいさな奇跡が生まれた夜だった。
──また、あしたも。
誰かの今日に、
そっと春風を届けられますように。
私は、エプロンのすそをぎゅっとにぎった。
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