第17話 秘密兵器
「なに……? これ……?」
思いがけない出来事に、ニナニナは大きな瞳を瞬かせ、困惑の表情を浮かべる。
ふわりと柔らかな石鹸のような香りが漂った。
「……ハグ……って、言うのよ……」
クルクスは、そっと語りかけるように囁く。
「ハァグゥウウ……?」
パレットの絵の具は乾き切り、視界を覆うキャンバスは灰色一色。
光と
そんな逃げ場のない閉鎖空間に囚われし、迷える子羊は、切々たる信仰に裏打ちされた、神聖にして切実なる至高の存在に祈りを捧げる。
ただ、たった一筋の…………慈悲深き
その細くも微かに震える手に感じる、
永続的に拡大する
「……えぇ……こうやってお互い抱き締め合うと……。心が……温まるみたい、よ……」
「う〜ん……? ニナニナ、ひんやりするのと、ほわほわ〜って感じしてる〜……っ!!」
「…………手首、痛くない……?」
その瞬間、クルクスは幼い少女にかけられていた冷たい金属の手錠を抱き締めたまま、音もなくあっさりと外していた。
子どもらしい少しビックリした声をあげたニナニナ……しかし、すぐにクルクスへ疑問を投げ掛けた。
「いた、い……? 痛いって、なあにー? クーちゃん……?」
その声は、悪意も知識もない、純粋無垢な子どもが親に分からないことを聞いてくるような、澄んだ声だった。
「……分からないなら……それでいい。無事で良かった……かたもついたことだし、増援が来る前に……ほら、帰るよ……うぐッ──!!」
突然肺が潰されるかのように、胸元が強く締めつけられる感覚にクルクスは襲われた。
喉の奥からするヒュウヒュウと空気が漏れる不快な音。喘息発作の症状だと、クルクスは混乱する思考の片隅で、瞬間に、そして驚くほど冷静に理解した。
「……はぁ、はぁ、はぁ──っ!」
ヘルメットがクルクスの手元から離れ、地面に乾いた音を響かせる。
「クーちゃん……?」
クルクスの不意の異変と、無理に
「……ゴホッゴホッ、平気。……ここで待ってて、コホッ……ちょっとした喘息。ケホッケホッ……すぐ止まる、から──」
絞り出した言葉とは裏腹に、肺の奥を掻きむしるような発作に収まる気配はなく、時間が経つにつれ一呼吸ごとの胸の痛み、空気の渇望は酷くなる一方だった。
クルクスは発作で歪む顔を隠すように、右腕の内側で口元を覆ったまま、頼みの綱である物を取りにバイクへと向かう。
メットインスペースを震える指先で開き、クルクスが手に取ったのは────携帯型吸入ステロイド薬だった。
それをシャカシャカと素早く振り、キャップを地面に投げ捨て、荒い息遣いと共に口に含む。
間髪入れずサイドにあるボタンを力強く押し込み、薬剤を身体へ叩き込むように吸入した。
これはあくまで一時的な応急処置に過ぎない。
数度の深い吸入の後、ようやく全身を蝕んでいた発作の波が引いていく。
クルクスは荒れ狂う呼吸を鎮め、わずかながらの落ち着きを取り戻した。
「ハアっ……ハアっ……ハアっ……。これで、最後……あとで補充、しないと……。……帰ったらすぐ注射、打たないと……」
吸入残量カウンターは赤色の0を示しており、これ以降喘息による発作が起きても、気道の炎症は抑えられない。
そのことをクルクスはしっかりと頭の隅に入れる。
額と首筋に張り付いた冷や汗が冷たい感触を残し、発作の後の脱力感が全身を襲った。
「────ッ!!」
クルクスは身の危険を感じ、咄嗟に体を捻る。
直後、眼前すれすれで何かが轟音を立てて通り過ぎた。しかし、若干反応が遅れ、掠めた頬からクルクスは流血する。
「………………」
ドガーンッ!
凄まじい轟音と共に、着弾したエネルギーは大地を深々と
一息つく暇など彼女にはない。
何が起きたのか彼女は瞬時に理解する……新たな問題が発生した。
「────ダメだよ、クーちゃん……?」
敏腕エージェントは狂気幼女と視線を交わす。
「死んじゃ、ヤだヤだーっ! ニナニナの側から、離れちゃダメだよーっ! いなくなっちゃ──いけないんだよっ……!!」
再びニナニナは圧縮空気砲の引き
口にしていることと行動が一切伴っていないニナニナ。
もしも、あれが直撃しようものなら死は免れない。
エージェントの彼女には、束の間の安らぎすら与えられない。
ニナニナの問題を早急に解決し、一刻も早くこの場を離脱しなければ、増援が到着してしまう。
クルクスは即座に行動を起こした。
ここに踏み止まっている時間はない。
だからこそ、クルクスは短期決戦で終わらせることにした。
その場を一歩も動かず、瞳を閉じて、ぽつりと一言……こう零す。
「……
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