第14話:はじめての、新メニュー
昼下がりの厨房に、
ふわりと甘く香ばしい匂いがただよっていた。
今日は、いつもとちがう空気。
私は、エプロンのすそをきゅっと握りしめながら、
作業台の前に立っていた。
「りるむちゃん、今日ね」
「ミニハンバーグ、作ってみない?」
店長が、ふわっと笑って言った。
──新メニュー。
胸の奥が、どきんと跳ねた。
「はいっ!」
小さな声で、でもしっかり答えた。
作業台の上には、
きれいにこねられたハンバーグのタネが用意されている。
私は、両手にすこしだけ油を塗って、
そっとタネをすくった。
丸めて、ぺたぺた。
空気を抜きながら、成形していく。
でも──
タネがやわらかくて、
なかなかうまくまとまらない。
まるめたはずが、指の間からはみだしてしまう。
「あああ……」
小さな声がもれた。
でも、ふと顔を上げると、
店長が、遠くからにこにこと見守ってくれていた。
──あわてない、あわてない。
私は、深く、深く、息を吸った。
そっと、やさしく、タネを包みこむ。
丸く、きれいに、ふんわりと。
さっきより、すこしだけ、
うまくできた気がした。
成形したハンバーグを、フライパンに並べる。
ジュワッと、やさしい音が広がった。
いい香りが、
厨房いっぱいに広がる。
焦げないように、そっと裏返す。
きれいな焼き色がついているのを見て、
胸の奥がふわっとほどけた。
──できた。
はじめての、ミニハンバーグ。
私が作った、小さな小さな新しいおかず。
売り場に並べると、
お客さんたちが、
「わぁ、おいしそう」とふわり声をあげた。
胸のなかに、
あたたかい光が灯った。
今日、またひとつ、
あたらしい春風を、作れた気がした。
厨房に戻ると、
店長が、やさしく手を振っていた。
「りるむちゃん、新メニュー第一号、おめでとう!」
私は、ぱあっと顔を輝かせた。
「ありがとうございますっ!」
小さなチャレンジだったかもしれない。
でも、それでも、
私は、また一歩前に進めた。
──また、あしたも。
ちいさな春風を、
だれかの今日に、そっと届けられますように。
今日も、願いをこめて。
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