矛盾とは②
「なぁ商人さん」
人混みの中から、誰かが声を上げた。
「はい、どうしました?」
「その盾を、その矛で突いたら、どうなるんだい?」
商人は、それに対する答えを持ち合わせていなかった。
「なんだ、ウソだったのか」
「優良誤認って奴だな」
兵士たちは口々に苦情を叫び、その場から立ち去ろうとした。
──その時、露店の脇に座り込んでいた男が、立ち上がった。
「なぁ、ちょっと。兵士さん」
「あ?なんだあんた。この嘘つきの肩を持つのか?」
「いいから、ちょっとそこで待ってなって。損はさせないからさ」
武器商人はきょとんとした顔で男を見ている。
「商人さん、ちょっと耳を貸しな……」
男は、商人に何かを耳打ちした。
「……なるほど。それは面白そうだ」
商人は口角を吊り上げ、再び矛と盾を掲げた。
「さあ!!寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!ここにあるのはなんでも貫く矛と、何も通さぬ盾でございます!!」
「それはさっきも聞いたって!!」
「引っ込めやオッサン!」
兵士たちが汚ないヤジを飛ばしても、商人は怯まなかった。
「これから、今ここで、それを試してみようじゃありませんか。どうです?盾が勝つか矛が勝つか。気になりますよね」
そして、男がこう続いた。
「どうだ、折角だから賭けてみようじゃないか。──賭け金は一口銅貨五枚でいこうか」
見物客たちは、眼の色を変えて男の元へ殺到した。
───勝負の結果がどうなったは、どの書物にも記されていない。
だが、ひとつだけ言える事がある。
どんな賭け事も、1番儲かるのは胴元だということだ。
きっと男と商人は、一夜にして財を成したに違いない。
『矛盾』
──矛盾とは、争っている者たちの傍で利益を掻っ攫う行為を表す故事成語である。
類義語:漁夫の利
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