第30話 ラグはHNΩを相手に激闘する
「ハントニュートライザーオメガ様。あなたの相手は僕が務めさせていただきます」
「お前、アンドロイドだろ。同族と戦うのはちょっと気が引けるな」
「ありがたきお言葉でございます。しかしながら容赦はいりません」
「元よりそのつもりよ。スター流に与えられた屈辱は何倍にもして返してやる……
特にあのメープル=ラシックの犬なら猶更だ」
「僕もスター流の一員として全力であなたと戦うことをお約束しましょう」
「おう。期待しているぜ」
ラグは金網が張り巡らされたリングでHNΩと対峙した。
HNΩが蘇ったと聞いて真っ先に対戦相手として挙手したのがラグだった。
互いに静かな火花を散らし、鐘が鳴った途端ラグは小手調べとして両腕を機関銃に変化させて無数の弾丸を殺し屋ロボットに向けて放つが赤いボディには傷ひとつ付かない。
ならばと今度は腕を前に突き出し発射したではないか。
「ミサイルパンチ!」
「グオオオオオッ……」
HNΩは腕をキャッチしようとしたが勢いを止められずに食らってしまう。
強固な顔面が凹むほどの威力だ。
次にラグは倒立をした。意味不明な行動にHNΩが小首を傾げる中、ラグは右足を太腿のあたりから飛ばしてHNΩのどてっ腹に炸裂させた。
「ミサイルキック!」
腕を飛ばす攻撃ならありふれている。しかし足を飛ばしてくるなど聞いたことも見たこともない。トリッキーな動きに殺し屋ロボットの対処は遅れていた。
「テメェがミサイルなら俺も対抗しねぇとなーッ」
HNΩは両肩のハッチを開いて超小型ミサイルを撃ちまくる。小さいとはいえ威力は高くラグの自慢の白い執事服は埃で汚れてしまった。殺し屋ロボットは単眼から光線を発射するがラグは機敏な動きで回避して間合いを詰め、まるで合気のように軽々とHNΩを投げ飛ばしたがHNΩはすぐに立ち上がって低空タックルを慣行。動きを予測したラグは跳躍して回避すると彼の頭頂部に踏みつけを見舞う。
何とかダウンを拒否して踏みとどまると対峙したラグにロボットにしかできない超高速の連打を見舞う。撃ち込まれる金属の打撃の雨にラグは無防備で受け続ける。
凄まじい連打の中でどうにか腕を伸ばして彼の腕を捉えて打撃を阻止すると硬い頭で頭突きを食らわせた。大きくのけ反ったHNΩに二発目を見舞って背負い投げでマットへ叩きつける。
「まだまだァ!」
裏拳が交錯。
白鳥のような蹴りも互角。
体格差はあるがふたりの実力は拮抗していた。
HNΩは同じアンドロイドであるが性能は自分の方が上と思い込んでいた。
だが実際に手を合わせてみると中々にラグは強く。実力を解放せざるを得ない。
ミサイルを出しビームも出した。打撃も決めた。虚空から彼は愛銃であるΣMDC(シグマミキサードライブキャノン)を出現させ、構えた。
思わぬ武器の登場にラグのセコンドについていたメープルが叫んだ。
「卑怯よ!」
「甘えな。俺は殺し屋だぜ。武器を使うのは当然だろうがッ」
先ほどの意趣返しとばかりにゼロ距離で引き金を引いてエネルギー弾を炸裂させた。
白煙にリングが包まれ晴れた時には身体から青い火花を噴出したラグが立っていた。
直撃したがまだ原型を留めている事実に少なからぬ驚きを覚えた殺し屋ロボだったが再び引き金を引く。まだラグは倒れない。三発目。衣服が吹き飛ばされ相応のダメージを受けているが、ラグはまだダウンしなかった。
「何故だ。三発も食らって何故テメェは立てるんだ⁉」
「ずっと、見てきましたから。スター流の皆様の雄姿を」
ラグは執事という立場上前線に立つ機会は極めて稀だったが影ながら彼らの活躍をずっと見続け、いつかは自分も彼らの役に立ちたいと思っていた。
「あなたを見て……今がその時ではないかと思ったのです……」
「嬉しいこと言ってくれるねえ。だが思い上がりも甚だしい。貴様のようなスクラップ風情が俺を倒すと⁉ 妄言もいい加減にしなーッ」
四度引き金に手をかけるが引き金を引いてもカチカチと虚しい音がするばかり。
その後の試合展開を考えずに使用したことで充電切れを起こしたのである。
自慢の武器が使用不可能になったことを悟ると乱暴に投げ捨て、右腕を細槍状に変換させたのである。その様を見てメープルは目を見開いた。
HNΩの必殺技発動の序曲である。あの細槍でかつて対戦したムースはへそから体内を貫かれ死の一歩手前まで追い詰められて敗北したのである。
「ラグ君気を付けて!」
だが一歩遅かった。
メープルが言葉を発したのと同時にラグは胸を貫かれたのである。
衣服が真っ赤な血で染まり背中からHNΩの槍が飛び出している。
ゴボゴボと口から血を流すラグに殺し屋ロボットは満足そうに眼を細めた。
「同じ轍は踏まねえのが俺の流儀だ。
メープルさんよぉ、俺を侮った報いを受けたな」
HNΩは歓喜していた。現世に蘇りメープルが最も愛するラグの命を奪うことで雪辱を晴らしたのである。細槍を引き抜き倒れたラグを一瞥して目にいっぱいの涙を貯めて唇を噛むメープルを見下ろして言った。
「次はお前の番だ。面倒くせぇがふたり仲良くあの世に送ってやるぜ」
「まだ、終わりじゃないわよ」
「……何?」
殺し屋ロボットは一瞬意味を理解しかね、合点がいった。
そういえば試合終了の鐘が鳴っていない。誰が見ても俺の勝利は決まっている。
ならば称えるゴングを鳴らすのが当然のはず。それが鳴らないのはどういうことか。
考えられる可能性があるとすればひとつしかない。
答えに思い至ったHNΩだったが手遅れだった。
ラグが背後からチキンウィングフェイスロックを極めていたからである。
「こんな初歩の技で俺が倒せるとでも?」
「いいえ。でも、これならどうでしょう」
ラグの全身が発光していく。
異常なまでの発光に彼が何を狙っているのか殺し屋ロボットは気づいた。
「まさかテメェ!」
それには答えずラグはメープルを見て微笑んだ。
「お嬢様、今までありがとうございました。あなたと会えて僕は幸せでした」
「私もよ。あなたを愛してる」
「……スター流に栄光あれ」
その言葉を最期にラグは大爆発を起こした。
跡形もなく破壊されたリングには殺し屋ロボットの破片さえも残されていなかった。
ラグは執事アンドロイドとしてスター流とメープルに命を賭して報いる道を選んだのである。
ラグVS HNΩ
両者死亡により引き分け
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