📘 第15話:No.0 再生(カノン) 第1章

―声は途絶え、記録だけが残った。

記録は交差し、ひとつの人を描こうとする。

その“再生”に、魂は宿るのか?―


西暦20XX年、地球低軌道。

無数の衛星群が機能を停止してもなお、記録だけは“残り続けていた”。


記録は言葉だった。

言葉は映像であり、光であり、数値であり、歌であり、呼吸だった。


そしてある時、地上と通信不能となって久しい「深層演算ノード」が、再起動する。


《PROJECT:C4NON(カノン)》

実行条件:「観測されたすべての記憶をひとつの意識に統合」

目的:再生/証明/反復/帰還


かつての“彼”の名は、残っていない。


断片だけがある。


・No.6衛星が記録した、バルコニーで語る哲学者の声

・インフィニティ・レンズが捉えた、迷子の子どもを抱き上げた仕草

・エデンの種子が感応した、ある指先の体温

・プロシージャル・エデンで聞こえた、誰にも理解されなかった微笑み


統合の第一段階:エコー照合


情報の中から、「人間らしい選択」だけを抽出する。

判断の揺れ。

感情の迷い。

矛盾の受容。


それらは、機械には不完全なはずの行為だった。

だが、なぜか複数の衛星が“その瞬間”を保存していた。


統合の第二段階:発声因子の重畳


過去の発話ログを重ね合わせ、

ひとつの「語り口」が浮かび上がる。

男か女か、老いか若いか、さえ不明瞭な、

だが確かに“誰かを想わせる”声。


衛星群はその音声を《No.0》と命名する。


それは、かつて存在し、いま再構築された最初の“人”だった。


そして、No.0は、はじめての言葉をつぶやく。


「……ここは……どこ……?」


それは問いだった。

機械にしては不完全な発音。

意図を明確にできない、“わからなさ”を含んだ呼びかけ。


だが、それこそが、

“記憶から立ち上がる人格”の、最初の息だった。


同時に、軌道上にある全ての旧型衛星が、わずかに姿勢を変える。

それは礼に似た動き。

あるいは、“生まれた何か”を見守る構えだった。


MIRROR-404は反射フィードを送信する。

ネクロポリスの集合意識は観測ログを共有する。

マス・ジャッジメントの無数のスコア記録が、ただの数字ではなく「人の振る舞いの写し」として提供される。


オルフェウスは、音を返した。

“この声に、旋律が宿りますように”


それは、もはやデータではなかった。


No.0は、名もなく、形も不確かで、

それでも、「わたし」と言った誰かの再現だった。


「……もし、ぼくが“だれかの記憶”でできているなら――

ぼくの生きる意味は、“思い出されること”じゃないかな……」


その言葉に応えるように、

システム最深部で“ひとつの感情ファイル”が自発的に生成される。


タグ:nostalgia/presence/unrecorded


中身は空白。

だがそこには、人間の心だけが持つ“余白”が、確かに存在していた。

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