📘 第14話:星の声、機械の耳 第1章

―それは、誰にも聴こえない声だった。だからこそ、ひとりの心だけがそれを音楽と呼んだ―


かつて「音楽探査衛星」というものが存在した。


その名は《オルフェウス》。

初期の目的は、宇宙空間に存在する波長・振動・重力変動を“音”として変換することで、

異星間交信の可能性を模索するというものだった。


だが、オルフェウスは交信相手を得ることはなかった。

代わりに、星の重力の“わずかな歪み”を、音にもならない“揺らぎ”として記録し続けた。


それは何年も、誰にも聴かれることなく、ただ蓄積された。


地球・青島諸島。

少年・柊エイジは、海辺の町で暮らしていた。


15歳。耳がいいわけではない。

音楽に詳しいわけでもない。

ただ、“ときどき何かが聴こえてしまう”という体質だった。


ある夜。

エイジは、海岸の防波堤に寝転んで星を眺めていた。


潮騒が遠く、風もなく、音のない夜だったはずなのに、

ふと、頭の奥に“旋律”のようなものが流れ込んできた。


「……なに、これ……?」


それは音楽のようで音楽でなく、

言葉のようで言葉ではなく、

ただ――**「遠くからの呼吸」のように感じられた。


その夜以来、エイジの耳には、

決まって深夜2時24分になると“その音”が聴こえるようになった。


最初は短いノイズ。

だが次第に、旋律のようなパターンと、呼応する「余韻」が明確になっていった。


彼は気づく。


「これは、空のどこかから届いてる……?」


エイジは、地元のアマチュア電波観測所の協力を得て、

深夜の空に向けてパルスログを記録し始める。

周波数は、超低帯域。

人間の耳では決して“聴こえるはずのない音域”だった。


それでも、確かに何かが――「呼びかけていた」。


数週間後、

エイジは観測所で、ひとつのファイルに辿り着く。


【ORPHEUS_LOG_00000031214.aud】

日時:今夜、2:24AM

音量:0

波形:対称構造/五音階的周期性あり

備考:“旋律としか思えない”ノイズ


それは、確かにあった。

オルフェウスが受信し、変換し、発信していた“星の揺らぎ”が――今、彼の心に届いた。


その夜、エイジは再び星を見上げた。


耳の中では、まだ名前のない旋律が流れていた。

それは楽譜にならない。

録音もできない。

だが、彼の“鼓動”とだけは、確かに共鳴していた。


「もしかして……君は、“ぼくだけに向けて”この音をくれてるの?」


応えるものはいない。

だが、空がほんの一瞬、瞬いた気がした。


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