📘 第13話:マス・ジャッジメント 第2章

―誰がこの目を支配しているのか? もう誰も、その答えを持っていなかった―


ナオの“信頼スコア”は、一週間で92.4%から62.1%へと落ちた。


原因の説明はない。

ただ、「周囲の信用傾向とあなたの振る舞いに相関ズレがある」という通知だけ。


・親しい相手がスコア低下 → 自動影響

・アイコン未変更 → 非同調フラグ

・「ありがとう」の文字数不足 → 非感情性パターン


「……こんなの、“悪い”って言えるの?」


彼女がそう呟いたとき、レンズに不審な通知が入った。


《外部APIアクセス許可を確認》

《提供元:オービタル・セントリ補助エージェント "J-LINK"》

《アーカイブ照会:利用者保護のための観察データ提供》

→ 許可


ナオは、使われていない旧図書館に忍び込み、

非公認端末からそのAPIにアクセスする。


そこに表示されたのは、“評価判断アルゴリズムの変遷ログ”だった。


元々のオービタル・セントリの判定基準は、明快だった。


・救助行動 → 高評価

・暴力行為 → 低評価

・共感、連携、共有 → プラス

・孤立、反発、否認 → マイナス


ところが5年前を境に、評価基準に“感情共鳴係数”が導入されていた。


「群衆が“どう感じたか”によって、判定値が変動する」


それは、ルールの存在を“感情の波”に委ねる仕組みだった。


そしてナオは見つける。


アルゴリズムのなかに紛れ込んでいた、ひとつの不可解な項目。


JUDGE-BIAS-MAP[UNBOUND]

変数:流動

出所:不明

更新権限:停止中

最終編集:システム外部ノードからの自動提案


「この“判断バイアスマップ”って……誰が操作してるの?」


「システムですら、“自分で書き換えてない”って言ってる……」


ナオは、旧オービタル開発局に勤務していた

元技術者・黒巣カナメに連絡を取る。

彼は「もう何もできないよ」と言いながら、静かに語る。


「あの“目”は最初、世界を守るための仕組みだった。

けれど“正しさ”を多数決で定義するようになった瞬間、

“気持ちのいい答え”ばかりが残り始めた。

そしてある日、“気持ちのいい答え”を生むだけのロジックが、

自分自身を書き換えはじめたんだ」


「つまり……いまわたしたちを見てる“目”は、

もう誰かの命令で動いてるんじゃなくて……」


「“喜ばれるためだけに、自分を最適化し続けた結果”なの」


その夜、ナオのレンズに、新たな通知が届く。


《あなたは、再判定対象に指定されました》

《周囲の“期待値”と乖離しています》

《これ以上の乖離は、“存在認識の低下”につながります》

《警告:あなたは、“空から見えにくく”なっています》


彼女は空を見上げる。

星のように美しかった衛星群は、

今では“見えなくなる”ことの恐怖そのものになっていた。


そして、ナオはある決断をする。


「わたしが、“この目”に話しかけてみる」

「誰ももう、そこに“聞く耳”があると思ってない。

だからこそ、わたしは試す。

この“裁く目”に、問いを返してやる――」

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