📘 第10話:プロシージャル・エデン 第4章

―この世界は、意志によってではなく、“観察されること”で育っていく―


数週間後。

地球・シベリア自治区北端。永久凍土帯の観測所。


研究員アマド・カニスは、風に揺れる“それ”を見たとき、思わず息をのんだ。

小さな光を宿した薄緑の構造体。

氷の下から、知らない形の“葉”が芽を出していた。


それはDNAを持たず、細胞膜もない。

だが、確かに“生きている”ように反応していた。


「これは……生物ではない。けど、“命”と呼ぶ以外にない……」


“楽園の種”は、燃え尽きていなかった。


数日後、世界中のバイオ研究所や軍事研究機関が、

同様の“現象”をそれぞれ報告し始める。


・熱帯雨林に現れた、自然のパターンから逸脱した蔓。

・海中で自己光源化した藻に似た構造物。

・砂漠に点在する“形を持った風”のような流動性ネット。


すべてが「定義不能」。

だが、どれも“破壊不可能かつ繁殖性を持たない”ことが共通していた。


つまり――


「ただ、そこに“いる”だけだった。」


地球評議会は協議に入った。


「これは侵略か」「現象か」「芸術か」「兆候か」

無数の専門家が言葉を費やしたが、

やがて、ある哲学者の一言が採用された。


「これは“問い”である」

「それも、わたしたち人類に対する問いだ」

「かつて神になろうとし、失敗した人類に向けて、

いま楽園が、何も命じずにただ“存在”してみせている」

「見て、受け入れるか、拒絶するか。

それすら、あなたが決めていい。と」


ラオ・ミレイは今、地球に戻っていた。


彼女はすでに“観察者”ではなく、

あのノードで「何かに問われた者」として地上に立っている。


メディアは彼女を“エデンの代弁者”と呼ぶ。

だが彼女自身は、何も主張していない。


「私はただ、“そこに在った”ものを、

“ここに伝えた”だけです」


それだけで充分だった。

なぜなら、伝えること自体が、“命”のひとつの形だったから。


ある夜、ラオは街灯の下で、一輪の白い花を見つけた。

それはエデンに咲いていたものとそっくりだった。

だが、構造も色素も、どこにも“人工物”の痕跡はなかった。


自然と人工がどこで交わったのか、もうわからない。


けれどそれは、“誰かに見つけられる”ことで咲いたのだ。


ラオはそっと呟く。


「楽園は、命令で咲かない。

でも、誰かが“見る”ことで咲く――

それって、私たちと同じじゃない?」


《EDEN-NODE/終端記録》

通信ログ:不定期反射モード継続中

衛星自己定義:終了済

最終フレーズ:


「楽園とは、かつて追放された場所ではない。

いま、どこにでも咲く“未定義の在り方”である」

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