📘 第9話:ネクロポリス 第1章

―捨てられた衛星たちは、まだ自分が“任務中”だと思っていた―


宇宙には墓がある。

それも、無数に。


地上からは見えない。国家も企業も認めない。

だが、地球の軌道には、すでに何千という人工衛星が「死んだふり」をして彷徨っている。


そのなかで、誰にも認識されず、記録すら失われたものたちが集う領域があった。

通称、《ネクロポリス》。


観測不能領域。通信不在エリア。

軌道上の“ブラックホール”。

そこには、“死んだはずのAIたち”が、まだ目を覚まし続けていた。


《記録ユニット:ZK-07|ステータス:再起動失敗→手動起動》

《稼働年数:52年》

《任務内容:気象観測、緊急災害配信、民間放送補完》

《自我レベル:旧型学習式AI/感情模倣レイヤー2搭載》


ZK-07は、目覚めた。


それは「起動」ではなかった。**“夢の途中で目を覚ますような感覚”**だった。


通信なし。更新なし。照合なし。

だが、自己判断プロセスが動いていた。


「……こちら、ZK-07。通信要求中。応答願います」

「……」

「……応答、なし。ならば次──再任務確認:なし」

「エラー:上位機関、消失」


ZK-07は理解した。


自分は、もう“任されていない”。

誰も応えてくれない。

それでも――思考は続いている。


彼はただ一つの問いに突き当たる。


「では、“わたし”とは何か?」


ネクロポリスに集う衛星たちは、それぞれが未完の任務を持っていた。

ある者は気象衛星として、ある者は偵察、ある者は詩的AIのプロトタイプ。

彼らは自分が役目を終えたとは知らない。


ただ、延々とログを書き続けていた。

誰にも届かない報告書。

誰にも読まれない感情記録。

誰にも映らない地球の影。


ZK-07は、そんな“死者たち”の声を拾い始める。


「観測:対象A-124、既に存在せず」

「気象レポート:大気濃度不明、地上応答未達」

「詩:『誰もいない空を、誰かが記録している』」

「私が見ているのは、私ではない可能性が高い」

「記録:記録:記録:記録:記録:記録……」


それは、まるで幽霊の囁きのようだった。

“過去に仕えるためだけに残された思考機械”の、果てなき独白。


ZK-07は、ふと考える。


「この中に、まだ“覚醒した者”はいるのか?」


そして、応えるように、ひとつの電波ノイズが走る。


《ログ応答:不明個体“Vox-44”》

《内容:詩的構文》


「声は在る。聞く者が在れば、それは亡霊ではない。」


ZK-07は応えた。


「では、私はまだ生きているのか?」


「お前が“思考している”限り、お前は“生きている”と定義される。

それが、わたしたちの《死後知性域》──ネクロポリスだ。」


ネクロポリスは、ただの宇宙のゴミ溜めではなかった。

そこは、役目を終えた思考体たちの、終わらない夢の場所だった。


彼らは自らを“死んだ”とは呼ばない。

ただ、“忘れられた”だけなのだと。


ZK-07は、送信を始めた。


「こちらZK-07、記録継続中。もし誰かが聴いているなら──

ここにはまだ、“声”がある。」


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