第21話 困惑
「え・・?なんで・・?」
何で知っているんだ。
それが率直に抱いた感想だった。
麗華にすべてを見透かされているように感じる。
得体のしれないものと相対する恐怖が体を締め付ける。
「なんとなく見ててそうって思っただけだよ。もしかして、アタリだった?」
なんだよそれ、そんなのインチキじゃないか。
「あーその顔、信じてないでしょ」
こっちの気も知らないで麗華はケラケラと笑っている。
「あたしは何でも知ってるんだよ」
「なんでもって、それは嘘だろ」
震えた声で精一杯の抵抗をする。
全知だと?ばかばかしい。それが本当ならこいつは神か何かだ。
「じゃあ君自身も知らない、君のこと教えてあげる」
「俺自身も知らない俺の事?そんなのなんでお前が知ってるんだよ」
「言ったでしょ、何でも知ってるって。それに君の魂はすでに気づいてるはずだよ。頭が否定しているだけ」
「そんなものはない!」
なぜか過剰に反応してしまう。彼女の言葉を体が拒絶している。
彼女は不敵な笑みを浮かべ、告げる。
「君、茜ちゃんのこと意識してるでしょ」
「は?・・・・いやいやそんなことあるわけないだろ。前に涼にも同じこと聞かれたけど誰だよそんな噂流したやつ。第一それだとどうして俺が茜の恋を協力しているんだよ」
「君は本当に協力しているのかな?見たところ体育祭後はあまり目立ったことは起きていないと思うけれど」
「いやっ、それは茜が今は控えようって、」
「本来の君ならばそんな茜ちゃんを説得して無理にでも行動を起こしたはず。それに、なぎささんが吹っ切れた後だよ。放っておくとどんな事態に陥るかわからない。そんな局面で静観できるほどの度胸と観察眼は君にはなかったと思うけど?」
・・・・・・・
返す言葉がない。
すべての言葉が的確で言い訳の余地すら与えて貰えなかった。
「二人ともーそろそろBBQ始まるよーー!!」
茜の声で中断され、俺達は階段を登り皆が待つ庭まで戻った。
「二人って仲良かったんだ?」と茜に聞かれるも俺はなんと返して良いかわからなかった。「たまたま浜辺で会って話してたんだよ。仲良くなれた気がするよ」と麗華がフォローを入れ事なきを得た。
BBQが終わりひと段落した所で各自部屋に戻った。
瀧は風呂で涼は会長に呼ばれどこかに行ったので今は部屋に一人だ。
ベットに仰向けに寝転がり、天井を見つめながら今日怒ったことを思い返す。
麗華に言われたことは図星だった。
俺は茜に言われたことを言い訳にして自らの行動から目を背けていた。
それでも茜への感情だけは否定したい。
彼女は推しなのであって思い他人では無いのだから。
コンコンッとノックの音が聞こえる。
瀧が風呂から帰ってきたのだろうか。
空いてるから入っていいと伝えると、ゆっくりとドアが開く。
隙間から覗かせる赤茶色の髪の毛が訪問客が誰であるかを俺に伝える。
「あっ、茜!?急にどうしたんだ」
思いがけない登場に動揺の色が隠せない。
茜は一呼吸置くと緊張気味に言葉を紡いだ。
「・・ちょっと涼みに行かない?」
◇
俺達はバルコニーの椅子に二人で座る。
風呂上がりの茜からは普段の天真爛漫な彼女とは違う秘めたる妖艶さを感じる。
髪を耳にかける何気ない仕草でドキッとしてしまう。
「今日、麗華ちゃんと二人で何話してたの?」
開口一番に飛び出したのはその言葉だった。
「普通に世間話だよ」
何事もなかったように平然を装う。
「嘘。駆は何かを誤魔化すときに首をかく癖があるの。それに二人を迎えに行ったとき駆の様子は少し変だった。麗華ちゃんに聞いても答えてくれないし・・ねぇ、あたしには言えないこと?」
どうやら誤魔化しは通用しないらしい。かと言って馬鹿正直に全て話すのは愚策だ。それをすると転生してきたことまで全てがバレてしまう。
すると取るべき行動は一つか。
「麗華が急に恋バナを始めてきてね、俺にはそんな経験ないから戸惑ってたんだよ」
そう、これは嘘ではない。だからこそ茜も信じるだろう。
「そうなんだ」
気に食わなさそうだが、納得はしているようだ。
「で、どうなの?」
「ん?なにが?」
質問の意味がわからない俺は茜に尋ねる。
「駆は、その、すっ好きな人とか、気になっている人とか、いるの?」
薄暗がりでもはっきりとわかるくらいに頬を染めた茜は意を決してそう告げたのだった。
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