第11話 CO

「では、今年度の体育祭実行委員会を始める。私は委員長の天宮心春あまみやこはるだ。何かわかないことがあれば遠慮なく言ってくれ。」

天宮先輩のあいさつと共に始まった委員会は、初回という事もあり、今後のスケジュール確認と簡単な事務作業をする程度だった。

書類の整理などをしていると、


「ちょっと君、少しいいか。」

と後ろから声をかけられ、

「はい、なんですか?」

と言い振りむと、立っていたのは天宮先輩だった。

「い、委員長!?どうかしたんですか?」

「たいしたことではないのだがな、この段ボールを第二教室まで運んでくれないか?運び終わったらそのまま帰ってもらっても構わない。」

「あっ、はい。わかりました。」

「そうだな・・・夕陽。少し量が多いし、一緒に行ってやれ。」

「はーい!じゃ、いこっか。」




________________________


荷物を運び終わり、茜のほうを向く。

「ふーーっ。終わったし、そろそろ帰る?」

しかし返事はない。茜はというと窓の外に夢中のようだった。

そこでは、サッカー部の練習が行われていた。

涼が見方からパスを受け取り、一人、二人といとも簡単にマークを躱していく。


「・・・涼・・」

おそらく無意識の内に出たであろう一言はその瞳とも合わさり茜を恋焦がれる少女へと仕立て上げた。

(やるなら今か・・・)

ここで俺は前々から考えていたある作戦を実行に移す。

今後の展開を大きく変える一手を打つ決心をする。

「茜ってさ、涼のこと・・・・・っ、好き、なの?」

「っっ、え?、え?、うそ、なんで?」

「涼のことよく見つめてるし、最初は保護欲的な感じなのかなーって思ってたんだけど、さっきも『・・涼』って呟いてたし・・・」

茜の方をちらっと見ると、両手で覆った顔から生える耳は茜色に染まり、小刻みに体を揺らしていた。

しばらくの沈黙の後、「ふーーっ」という深呼吸の後に茜はボソッと「駆っちかぁ、まぁ、駆っちなら言っても大丈夫か」と俺に聞かないような声で呟いた後、俺の方に向き直り、口火を切った。

「あちゃーー、ばれちゃってたかーー。実はそうなんだよね。あたしってそんなにわかりやすかったんだぁ。っ、もしかして既に涼にもばれてたり・・・」

「あぁその心配はないと思うよ。まぁわかりやすいのは否定しないけど。」

「そっかぁ。わかってると思うけどこの都は二人だけの秘密ね?こんなこと話すの滅多にないんだから。」

「もちろんだよ。俺、茜のこと応援してるし、俺にできることがあるなら何でも協力する。」

これは本心だ。茜の目を見つめ、俺が本気であることを伝える。茜の為だったら何だってする覚悟がある。

「ありがとね、そう言ってくれると、心強いよ。」

「あ、のさ、もし良かったら俺に手伝わせてくれないか?」

「えっ?」

素っ頓狂な声で茜は返す。

「茜と涼が付き合う為に二人の近くに協力者がいたら楽だと思うし・・そ、それに、もう少しで体育祭で、俺委員だからいろいろとかできることあると思うから・・」

ごにょごにょとしつつも、しっかりと本心を口に出す。

(大事な時に上手く喋れないとか、陰キャ拗らせすきだろ、俺)

陽キャに混じっていても陰キャは陰キャ、陽キャになれたわけじゃない。残酷だがこれが現実だ

俺の気持ちを聞いた茜は

「ありがと!そう言ってくれてとっても嬉しいよ。うん、是非お言葉に甘えちゃおっかな。でもさ、どうして君はそんなにあたしのこと気にかけてくれるの?」

「それは・・・」

もちろん、押しに幸せになって欲しいというのも一つの理由であるが、それよりも

「恩返しだよ。茜には大きな恩があるからね。」

「うそ、あたしそんなことしたっけ?どんなこと?ねぇねぇ教えてよ〜」

そんなこと。茜にとっては大したことではないかもしれないが、俺にとっては生きる意味になり得る程には価値のあるものだった。

(こんなの、一生かけても返せるかわかんないよ)

「内緒〜」

まだ、茜に伝えるわけにはいかなかった。

「ずーるーいーっ。あたしの秘密教えたんだし、教えてくれたっていいじゃん!」

「また今度。」

そう言い部屋を後にする。

さて、問題はここからだ体育祭まで火はあまりない。具体的な策を考えないと。

思考を巡らせていると、「いじわるー」と頬を膨らませてぷんすかと子供のように怒りながら茜が俺の後に続き部屋から出てくる。さっきの乙女とのギャップに笑いが止まらなかった。

「こらー何で笑ってるのー」

「いや、ふふ、ごめんって。」

今はまだ、この至福の時間をたっぷりと堪能しよう。




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