1-04
なるほど確かにそこは廃墟で、そしてその前はきっと医療施設だった。
看板は蔦だらけで読めないけれど「医院」と書いてあるのはたぶん間違いない。るりちゃんはダッシュボードから取り出したマグライトを手に、ヒールを鳴らしながら廃墟に突入する。そういえばこういうところって、人が住んでなくても勝手に入ったらダメなんだっけ? 法律違反? なんて手遅れなことを考えながら、私もるりちゃんに続く。
玄関を開けると、るりちゃんが話していたとおりの受付に待合室、診察室、処置室。埃の匂いが鼻の奥をつつく。マスクをしていた方がよかったな……と思うけれど、うっかり持っていない。しかたない。
るりちゃんは一階のあれこれの設備をスルーして、奥に向かう。確かに階段がある。見上げた先には手すりがあり、そしてその向こうは闇。よくもまぁこんなところに、るりちゃんは単身ずかずか入っていくものだ。何が彼女をそうさせるのか、私は知っているけれど、知っていてもやっぱり「よくもまぁ」と思う。
「るりちゃん的には、二階の方が気になるんだ?」
「うん。根拠とかないけど」
と言いながら、るりちゃんはまっすぐな瞳で二階を見つめる。次の瞬間、その瞳が大きく開かれる。
「あ」
思わず飛び出してしまった、るりちゃんにはちょっと珍しいポカンとした声が、丸く開いた口から飛び出す。
私も二階を見上げる。そしてるりちゃんの「あ」の意味を知る。
二階に向かう階段が、半分塞がれている。
踊り場よりも先、左右の手すりをつなぐみたいに、黒っぽいロープが何本も張られている。マグライトで照らしてなかったらわからないような代物だけど、それを見た瞬間、私は「KEEP OUT」って書いてある黄色いテープを想像する。その周囲の壁にも、緑色のテープがべたべた貼られている。
るりちゃんは階段の一段目に足をかけたまま固まっている。私はるりちゃんを追い越し、ロープが張られている辺りに近づく。
近づいてよく見ると、白いテープに後から黒いマーカーか何かで色を塗ったものだとわかる。壁にべたべた貼られているのは養生テープで、これも端っこが黒く塗られている。緑色のテープはそこだけじゃなく、階段の手すりや踏板、それに二階の床や壁にも貼られているらしい。まるでつる草が縄張りを広げていくみたいに、二階へと続いている。
「ふっ、ふふふふふふ」
背後から笑い声が聞こえる。言うまでもなくるりちゃんの声だ。振り返ると、るりちゃんはやっぱり笑っている。顔を両手でおさえて、それでも笑いが漏れてしまうのがどうにも抑えきれないって感じで、すごく嬉しそうに笑っている。
私は階段を下りる。るりちゃんが上ってこないのなら、もう二階に興味なんてない。るりちゃんはスマートフォンを取り出し、ロープとテープで封鎖された二階を撮影している。何枚も何枚も撮る。くすくす笑いは途中からどんどん高笑いみたいになっていく。
「あははは! やっぱりここ何かいたんじゃん! うける!」
一人で盛り上がってるるりちゃんを眺めながら、私はこの建物にまだ潜んでいるかもしれないお化けにちょっと同情する。凹むよね、きっと。
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