空っぽの家
春の終わりに、遠くから帰省してきた友人が一緒に訪ねてきた。
「実家の近くに古い家があるんだけど、ずっと空き家で気になるんだ」と言う。
その家は、町外れにひっそりと佇んでいた。
外観は年季が入っていて、庭は雑草で覆われていたが、全体的に不気味なほど静かだった。
「引っ越ししてきた頃から、ずっと空き家なんだよね。誰も住んでないけど、誰も近づこうとしない」
家の前には、ひっそりと花が咲いていた。
それがまた不気味に見えた。
「昔、何かあったのかな?」と俺が尋ねると、友人は黙って首をかしげた。
その日は特に気にもせず、友人と話しながら帰ったが、なぜかその家が頭から離れなかった。
翌日、仕事を終えてから再びその家を見に行った。
今度は中に入ってみたくて、こっそりと鍵を持っていた。友人がもらったのだと言っていた。
扉を開けると、ひんやりとした空気が迎えてくれた。
家の中は、何年も使われていないにも関わらず、どこか整理された様子で、埃ひとつない。
「誰かが掃除していたのか?」と思ったが、その後すぐに感じた異様なことに気づいた。
周囲の壁、棚、テーブルにあったはずの物が、すべてなくなっていた。ただ、空間だけが広がっていた。
その時、背後で音がした。
振り返ると、家の奥から人の足音が聞こえてきた。
「あれ? 誰かいるの?」と思ったが、声をかける前に足音はすぐに止んだ。
何かに引き寄せられるように、足を進めた先に、ひときわ大きな部屋があった。
その部屋の中央には、一枚の大きな鏡が置かれていた。
鏡の前に立った瞬間、寒気が背筋を走った。
鏡に映ったのは、自分ではなく、どこか懐かしい顔だった。
それはかつて、この家に住んでいたかもしれない誰かの顔だった。
そしてその顔が、ふっと微笑みかけてきた。
慌てて目を閉じると、突然耳元で囁く声がした。
「あなたが帰るのを待っていた」
その後、家を出てからは、何も思い出せなかった。
ただ一つ分かったのは、その家が完全に空っぽだということだ。
それから数日後、友人から連絡が来た。
「家、見つけたんだ。お前が行った家、実はずっと誰も住んでいないんじゃなくて、ずっと同じ家族が住んでいたんだ。けれども、数年前に全員が行方不明になったんだって」
俺はその話を聞いて震え上がった。
家の前に咲いていた花は、その家族が好きだった花だという。
そして、最も恐ろしい事実が分かった。
その家族の名前を調べると、何かが腑に落ちた。
その家に住んでいたのは、やはり俺の祖父母だと。
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