第4話 最初の死者
「諸君。……いったん、落ち着こうではないか?」
威厳のある落ち着いた声で大魔導士のオリバースが皆の緊張を和らげた。
「魔導士の爺さんの言う通りだ。我らを仲間割れさせ、同士討ちに陥らせることも、死んだ魔王の意図やもしれぬ」
被せるようにドワーフのアレックスが皆に冷静さを取り戻させようとした。
年長者二人に言われて、多少は落ち着いたようだ。
それでも警戒は解かれない。
「で、騎士団長どの。我らの中に魔王がいるという確証は?」
オリバースの問いに、正直にシルヴィアは首を横に振った。
「なるほど。では、我らの中から次の魔王が現れるのを恐れているだけですかな?」
シルヴィアは頷くことしかできない。
「ですが、皆さまには、確実に魔王ではないとわかるまで、ここに留まっていただくしかありません」
「待ってください。騎士団長。この中には、怪我人もいます。早く王都……でなくとも、せめて人里で治療をせねば……」
「残念ですが……。ですが食料の供給は約束します」
「そんな。もしも……彼女が死んでしまったら……」
ふむ。どうやらレオンハルトの相方であるルミナの容態は相当よくないのだろう。
「ふふふ。死んだら、私が動かせるようにしてやるぞ?」
モルドレッドの言葉に、さすがのレオンハルトが鋭い眼光を放った。
相手が死霊使い《ネクロマンサー》の場合、冗談では済まない。
「それに、死にかけているのが次の魔王かもしれないしな」
いかん。レオンハルトが既に柄に手を置いている。
電光石火の速さと噂されている剣速だ。この中では、ビンゴの次に早い。
「落ち着かれよ。死霊使いも下手な挑発をするでない」
ドワーフのアレックスがのんびりとした声で二人を止めた。
そのいかつい右手の指が、レオンハルトの剣の柄をつかんで、抜かせないようにしている。
「レオンハルトよ。相方の心配もわかるが、ここで魔王を取り逃がしたとなれば、確かに再び問題が起きることも事実。我らもお主の相方を死なせたいわけではない」
大魔導士のオリバースに言われては、レオンハルトも剣を抜くわけにはいかないのだろう。
不承不承、従い席に座った。
「モルドレッドも謝れ。挑発して相手の様子を見たかったのじゃろ?」
「さすが、大魔導士。見抜かれていましたか」
「下手に魔王の策に乗るでない。我らを疑心暗鬼にすることも、奴の策じゃ」
モルドレッドは素直に頭を下げた。
こうして皆がおとなしくなると、ようやくシルヴィアの緊張も解けた。
「皆さまには大変、申し訳なく思います。いましばらく、ここに留まってください。少なくとも、もう一名の英雄がいらっしゃるまでは」
「ゾルタンか。あやつ、この話を聞いたら、怒りだすぞ」
「そう言えば遅いですね。僕たちよりも先に出立していたのに」
「もし双剣将軍が魔王に乗っ取られていたのなら、話は早いぜ。みんなでやっつけようぜ」
双剣将軍とは、ゾルタンの通り名。実際には「将軍」の称号を王国から与えられたわけではないが、戦闘指揮能力も、戦闘力も高い人物であることは確かだ。
この戦いにおいて、無双の剣技を見せ、北部戦線で活躍した一人だ。
「何が『話が早い』だ。ゾルタン相手に戦うのは至難じゃぞ?」
「彼のお蔭で、どれだけ助かったか。……僕も彼を敵に回すのはゴメンですね」
「……気付いていないのか? その双剣将軍なら、既に来ているぞ」
そこまで一言もまだ喋っていなかったシノブが窓の外を親指で指さした。
吹雪の中に確かに人影が見える。
何人が窓辺に近づき、水蒸気で曇った窓を手で拭いた。
ゾルタンは、北部戦線の至るところに顔を出している。皆を助け続け、北部戦線を 有利にした立役者とも言えた。何人かは顔なじみになったのだろう。
シルヴィアも窓辺に近づき、吹雪の外に目を凝らした。
……様子がおかしい。その男はピクリとも動かない。
「ホントだ。あれはゾルタンだぜ」
「来ているのなら、声を掛けてくれればいいのに」
「どうしたんだ? あんなところで立ち尽くして。外は寒かろうに」
「既にやられた後だからな。『動かない』のではなく、『動けない』のだろう」
シノブの発言に皆がぎょっとした。
「誰に? 深手か?」
「相手は知らぬ。魔王かもな。首がないことが深手に入るのなら、深手に違いない」
シノブの言葉に再びぎょっとして窓辺に近づいた全員が目を凝らした。
吹雪の中に立ち尽くすその巨体のその男は、確かに首がなかった。
──良いか? 魔王は、最も心の弱いものを狙う。心の隙間があるものに気を付けよ。シルヴィア。皆の心を強く持たせろ。最も心が弱いものが、魔王の器となる。
大賢者テオドールがシルヴィアに告げた言葉を思い出した。
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