第8話 戦う者の歌が聞こえるか side.柊
「俺は監督の沖田清晴、よろしく。指示出すときは聞いてくれると嬉しい、皆集まってくれてありがとう」
「黒田悠、悠とかユッさんとかで呼んでく~ださい。主役の片割れやるます、沖田の相方で~っす……。部活やってんで毎日は顔出せねっす、よろぴ」
「ははははハジメマシテきゃきゃきゃ脚本の柊です柊と呼んでくださいコミュ障ですオタクです許してください本当にどうか見逃して嫌なら言ってください消えるんでお願いします」
「じゃあ台本配るな、これ全部柊が書いたやつだから。今柊は緊張してるだけだからなんも気にしなくていーぜ」
金曜日の放課後、ウチの教室にて。映画の製作スタッフ・演者全員の顔合わせが行われることとなった。人手の募集は全部沖田がやっていたためどんなになってるかイマイチよく分かってなかったけど、いざ顔を合わせると壮観。皆陽キャみたいな雰囲気してるし実際陽キャだろう。じゃなきゃ自分から映画の制作立候補しないって。
初対面の人にビビり散らかしている間に全員に台本が行き渡り、それを見た沖田が再び口を開く。背筋はピンと、堂々ハキハキしゃべっている彼は、同い年とは思えないくらい立派だった。
「ここに集まってくれた人、ほんっとうにありがとう!!俺は監督初心者で、至らないところも、未熟なところもきっとある。でも、きっと完成させるから、最後まで一緒に頑張ろう!!もし駄目なとことか、気になったとこがあったらすぐに言ってくれ、治せるよう努力するから!!……じゃあ、撮影スケジュールについて説明するな、あとでLINEにも送るから、もし聞き漏らしたらそっちで確認してくれ」
それから始まる制作会議。撮影スケジュールに始まり、機材の準備、予算、最終目標まで話が進む。集まっている人も真剣な顔して聞いてて、皆ガチで映画を作りに来てることが分かった。ヒイラギお姉さん完全に蚊帳の外。脚本の人だからここにいるだけなんだよな、正直帰りたい。知らない人怖い。でも帰ったら沖田氏が怖いし悠サンが悲しい顔するだろうし。部屋の隅っこで膝抱えとこっかな。
「よっこらせっと…………」
「何してんだ柊、今から演出の話すんぞ。柊がいねーと意味ねーだろ」
「ええん何で……」
部屋の隅に行った瞬間呼び戻されてしまった。なんという間の悪さ、しかもめちゃくちゃ注目されてんじゃん。イヤだ、見ないで欲しい。
ぐずっていると、しびれを切らした沖田が腕を引っ張って、隣に座らせてくる。これでもう逃げられない、ジエンドです(絶望)。
「演出は主に俺と柊で決める。でも、もし撮影中に良い案思いついたらじゃんじゃん言ってくれ、頼む。じゃあ柊、どうぞ」
「え、ちょ」
突然のキラーパス。沖田を見ると、目には面白がっているような光が浮かんでいる。こいつホンマ、と殴り掛かりたい衝動を何とか抑え、悠さんの方を見ると、彼女も同じような目をしていた。了解、今日から敵ですこの2人は。
「アッ、す。…………ヒ、柊です、ども」
沈黙が苦しい。針で全身を突かれているみたいだ。耐えきれなくなって、声を上げてもどもりきって聞き取りにくいし。みじめだ、もうお家に帰りたい。そもそも何で私がわざわざ演出について話さにゃならんのだ、おかしいだろ。知らない人に対する緊張は、いつの間にかふつふつと沸く怒りに塗り変わっていく。沖田ヌンティウスの横暴は決して許されない、神が許そうとこの私は絶対に許さない。急に話を振るな、注目を集めさせるな、逃げ場をなくして追い詰めるな。
「沖田は敵です」
「えっ」
「すみません言い間違えました。演出なんですが自分素人なんでままならないところもあると思います、許してください。楽できるとこは楽して、力入れたいところに全力出す感じで頑張りましょうよろしくお願いします」
「俺、なんかした……?」
なろう系主人公みたいなことをのたまう沖田を無視して、演出についていくつか話す。一回スイッチ入ればこっちのもん、ヒイラギお姉さんの独壇場だ。さっきまでのド緊張も忘れて、手を抜いてほしくない要所要所を説明する。ずっと俺のターンなら大丈夫、ターンエンドで死ねばいいだけの話なので。怒りの力ってすごい。
「――――以上が気を付けて欲しいところです、あとでメモ送るので見てもらったら幸いです。それと、作品の雰囲気とか解釈が分からないときはじゃんじゃん聞いてください深夜帯以外は大体連絡つくと思うので、ハイ、私も一応成功させたいと考えてるので、あの、こんなオタクですけど助力できるように頑張るので、頼りないかもだけど頼ってくれれば幸いです。あと沖田は強引なので油断してると大変なことに巻き込まれます、彼の陽キャオーラに騙されないでしっかり話を聞きましょう、弱みを握られたら終わりなので、事実私はそれで脚本書いたので、ア、もちろん今は全然協力する気だし成功させたいと思ってます。でも本当に沖田の話に適当にうなずいてると大変な目に合うので、コイツと話すときはちゃんと聞いといた方が良いです。ガチで。……えと、というわけで、よろしくお願いします」
「ヒイめっちゃ沖田のこと恨んでんじゃん、ウケる」
最後に頭を下げると、ぽつり、悠さんが呟く。そうだよ恨んでるんだよ、こんなに強引な人初めて会ったもん。
沈黙が広がる。やっぱり皆ドン引きしてるだろうな、私もそう思う。めちゃくちゃ一人でしゃべるもん気持ち悪いよね。やばいな、申し訳なさで死にたくなってきた。ターンエンドだ。
「…………僕も、沖田の口車に乗せられた、よ」
「おれも。映画のことなんも分かんないのに、気付いたら参加してた」
「えっ、もしかしてみんな同じ?俺もなんだが」
「被害者一号が柊さん、ってコト!?」
「え~まじで~!?それで脚本やったのすごくね!?」
「ここにいる人たちで被害者の会作れんじゃね?」
池に石が投げ込まれたように。段々と話が広がって、ワッと盛り上がる。どうやら、ここにいる人たちは自分から参加したのは間違いないけど、その大半が沖田に唆されて参加したみたいだ。そうなると一気に親近感がわいて、陽キャとか初対面とかどうでもよくなる。共通の敵がいるってすごい、なんか皆が仲間になったみたいだ(注、元から仲間です)。
みんな口々に沖田にどう言われた、こう誘われた、と話し始めて交流。唆し文句選手権で距離が縮まってるようだけど、沖田の悪口は一切出てないので安心する。流石にね、沖田の悪口で盛り上がったらね、いけないからね。
「柊?ヒイ?どっちで呼べばいいけ」
「ア、もうそこは良しなに好きなように呼んでもろて。私一年生ですしおすし」
「ほなヒイで」
「俺は柊って呼ぶな!」
「ヒイちゃんで」
「アッ、ハイもうどんどんご自由に呼んでください。皆さん映画作り頑張りましょう、そんでどっかで沖田に仕返ししましょう。ここにいる皆は仲間です、戦友です、被害者です!皆ーッやるぞーッ!!えい、えい、おーーー!!!!」
おーーーーー!!!!と皆は拳を突き上げ、一気に士気が高まる。いつの間にか私が仕切るようになってたけどマア良いだろう、皆仲間なんだし文句言われてないし、それに楽しいから。
一方、沖田はというと、教室の隅で膝を抱えていて、悠さんに慰められていた。
「俺、嫌われてんの……?」
「違うよ、悪口は言われてないからね。嫌われてない嫌われてない、でもちゃんと支持率上げよーな、そのうち革命が起こんよ」
「えーん……」
◇◆◇
制作委員会ゲキジョウ 名簿
スタッフ
監督
脚本
撮影
照明
音楽/録音
編集
衣装
メイク
記録 柊 秋 (一年)
演者
佐伯 理緒 役
橘 夜月 役 沖田 清晴 (一年)
坂田 結衣 役
有馬 湊 役
友人 役 長良 いろは (一年)
友人 役 逆瀬 玲夏 (二年)
メモ(ヒイラギお姉さんより)
・演出は柊と沖田でやる。良い案思いついたら教えて
・手が空いてる人は色んなとこ手伝ってほしい
・途中参加も可能なので、友達とか誘ってクレメンス(人員足りない)
・無給、許せ
・まず自分のこと優先して
・なんかあったら沖田のせい
メモ(沖田より)
・勉強優先、部活優先
・報連相しっかり
・革命禁止
・夏に遠出するかも
撮影スケジュール → 『file. Gekijo-schedule』
伝言
一番近い撮影が文化祭1日目だから!!演者はそれまでにセリフ覚えること、スタッフは機材の扱いに慣れておくこと!!(沖田)
↑撮影以外で集合は普通にあるっぽいからそこで練習できるよ(悠)
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