第44話:謎の香りと、転入生との出会い
期末試験まであと一週間。
勉強会の疲労と香りの混合ダメージで、僕の鼻は未だに過敏状態だった。
(今朝の電車、柔軟剤の香りと香水の香りが重なってて軽く嗅覚事故……)
登校後、窓際の席に座っても、鼻の奥がピリピリする。
香りの“残り香”は、僕にとって文字通り“記憶の残像”だ。
だが。
その日。
教室の空気が、すっと変わった。
風が抜けたわけでもない。
誰かが声を上げたわけでもない。
ただ一瞬、誰も知らない香りが、ふっと教室をかすめたのだ。
(……なに、今の……)
甘くもなく、爽やかでもない。
重くないのに、記憶に引っかかる。
透明感があって、それでいて冷たい印象を残す“香り”。
ふと見ると、教室の入り口に担任の伊藤先生が立っていた。
「えー、ちょっと静かにー。
今日から転入生が来るから、自己紹介な」
ざわっとクラスが騒めく。
そして、ゆっくりと現れたのは、
長い黒髪に、白に近い青のカーディガン。
制服をきっちり着こなしながらも、どこか儚げな空気を纏った少女だった。
「……七瀬いぶきです。
よろしくお願いします」
彼女の声は、静かで、凛としていて……でも、少しだけ震えていた。
僕の鼻が、また反応する。
(やっぱりこの子だ……さっきの“香り”、この子の周囲から来た)
ざわつく教室。
「なんか、モデルっぽくね?」「めっちゃ美人……」「でも近寄りがたい」
その評価は、確かに的を射ていた。
担任がいぶきを僕の席の隣に案内しようとした、その瞬間。
彼女が一歩下がった。
そして、僕をじっと見つめて、はっきりと言った。
「……あなた、香りが濃すぎるのよ」
ざわっと、また教室が揺れる。
「近づかないで」
それは、はっきりとした拒絶だった。
……だが、僕の鼻はわかっていた。
この子もまた、“香りに支配されている”人間だ。
そして僕とは、真逆の嗅覚を持っている。
“極度の嗅覚過敏”──それが、彼女の抱える秘密だった。
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