第37話:香りが導いた正義──そして静寂

犯人、橘祥一の身柄は確保された。


屋上での自白と証拠が揃い、事件はすぐに立件に向けて動き出した。


翌日、警視庁捜査会議室。


僕は、浅見局長から正式な謝意と報告を受けていた。


「……異常な嗅覚、とはよく言ったものだ」


浅見局長は、やや苦笑を浮かべながら僕の前に立った。


「白井健太。君の鼻は、我々が何十人かけても見落とす“違和感”を拾ってくれた。

君の力がなければ、あの男は逃げていただろう」


僕は黙って頷く。


「……もし将来、進路に迷ったら、君の鼻を頼りにする組織があることを、覚えておいてくれ」


その言葉は、静かな重みと未来の匂いを含んでいた。


僕が警視庁を出たとき、ちょうど雨上がりの陽射しが街を照らしていた。


そして、待っていたのはヒロインたち。


「おっせーよ白井! こっちはずっとニュース見てたんだから!」


ルナが駆け寄ってきて、制服の袖をパンと叩く。


「……本当に無事でよかった」


美月が静かに言った。


「香りって、本当に嘘がつけないのね」


「でもさ……白井の鼻、ちょっと頼りすぎないでほしい気もする~。

一緒に歩いてても、変な匂い追っていっちゃうから」


「……でも、私はまた新しい“香りの小説”が書けそう」


紅葉がそう言って微笑む。


僕は、彼女たちの香りを感じながら、深く息を吸い込んだ。


ミルクティーの柔軟剤。

ウッディとマグノリア。

そして、紅茶と墨の混じった香り。


どれも僕にとって、何よりも大切な“日常の匂い”だった。


「……人の心は香りに出る」


僕は、ぽつりと呟いた。


「香りの嘘は、鼻で暴ける」


香りを愛し、香りに導かれ、香りに救われる。


そしてこれからも、香りの先にある“誰かの本音”を嗅ぎ分けるために、

僕は、この“鼻”を使っていく。


嗅覚探偵・白井健太の、“嗅ぎ分け青春”は、まだ終わらない――!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る