第5話:匂いの真実、過去の影
――匂いは、記憶を呼び覚ます。
紗奈の家族にまつわる匂いの話。それは、単なる体臭や香水の問題ではなかった。彼女が言うには、匂いが強くなることで過去の「トラブル」が蘇り、それが彼女を不安にさせていたのだという。僕はその話を聞いて、紗奈が抱えているものがただの悩みではなく、何かもっと深い秘密が隠されていると感じた。
その晩、僕は一人で考え込んでいた。匂い、そして紗奈の話。もしかすると、彼女の匂いの変化は、ただの体調や心理的なものにとどまらないのかもしれない。過去の「トラブル」とは、一体何だったのだろうか?
翌日、学校。僕は放課後、再び紗奈に会うことにした。今日は少しでも彼女が話しやすいように、無理に質問をしないつもりだった。彼女が本当に話したい時に、きっと僕に教えてくれるだろうから。
放課後、教室のドアを開けると、紗奈が一人で机に向かっているのが見えた。いつもより少しだけ憂いのある表情をしていた。
「やあ、紗奈。今日はどう?」
僕が声をかけると、紗奈は少し驚いたように顔を上げ、そしてそのまま微笑んだ。
「あ、白井くん……ありがとう。少し元気が出てきたよ」
それだけで、僕は少しだけ安心した。彼女が少しでも元気を取り戻しているなら、それだけで十分だ。
「よかった。無理しないでね」
僕は軽く頷きながら、彼女の隣に座った。そして、あの匂いが再び僕の鼻をくすぐる。紗奈の近くにいると、どうしてもその匂いが気になる。それが何かの手がかりになるのか、それとも単なる偶然なのかはわからない。
「ねえ、白井くん。私、もう少しだけ話してもいい?」
紗奈が静かに言った。その言葉に、僕は即座に頷いた。
「もちろん、話したいことがあれば、なんでも言ってよ」
紗奈はしばらく黙っていたが、深呼吸を一つした後、口を開いた。
「実は、私の家族……父と母が匂いにすごく敏感なんだ。特に父が」
その言葉を聞いた瞬間、僕はすぐに反応した。匂いに敏感な家族――それがどんな影響を与えるのか、少しずつ見えてきた気がした。
「どうして敏感なんだ?」
僕が尋ねると、紗奈は少し考え込みながら言った。
「父が若い頃、何かの事件に巻き込まれたらしくて……その時、匂いが重要な手がかりになったんだって。でも、その事件は……」
紗奈は言葉を飲み込んだ。やはり、簡単には話せない過去があるのだろう。
「その事件が、今でも家族に影響を与えているんだ」
「事件……?」
「うん。父が言うには、匂いがその人を見分ける鍵になるんだって。でも、最近になって、その匂いが強くなってきている。私の匂いも変わって、周りの人にも何かを感じさせるような気がするの」
その時、僕の鼻が再び反応した。紗奈の匂いが、確かにいつもより強く、そして少し不安定な感じがした。まるで、彼女の心の中にある何かが、匂いとして現れているような……。
「だから、匂いが強くなることが怖いんだ。父が言っていた事件のことが、私にも影響を与えているんじゃないかって……」
紗奈の目が少し揺れる。彼女が過去に向き合うのは、まだ怖いことなのだろう。それでも、少しずつ彼女の過去が明らかになっていく。
「紗奈……その事件って、一体何だったんだろう?」
僕は思わず問いかけた。彼女が話してくれた過去がどんなものなのか、少しでも知りたかったから。
「それは……」
紗奈は言葉を濁したが、続けた。
「父は、それについて話すのが苦手みたい。あの事件が、私の家族を変えたのも、匂いが関係しているからなのかな。私も、ずっとそのことが気になっていたんだ」
その時、僕は気づいた。紗奈の匂いには、ただの香り以上の意味が隠されている。そして、その匂いを解き明かすことで、紗奈が抱えている「秘密」を少しでも明らかにすることができるのかもしれない。
「もし、君がもっとその匂いを気にしているなら、僕も手伝うよ」
僕の言葉に、紗奈は一瞬驚いたように目を見開き、そして小さく頷いた。
「ありがとう、白井くん。でも、私もまだその匂いの真実を知らないんだ。だから……もう少しだけ、時間をかけて考えたい」
僕はそれに答えた。
「もちろん、焦らなくてもいいよ。でも、どんなことでも話してくれたら、僕も力になるから」
紗奈は少し笑顔を見せて、静かに言った。
「うん、ありがとう」
その笑顔が、僕の胸に温かさをもたらした。匂いの謎が、少しずつ解き明かされていく――それが、紗奈と僕の新しい物語の始まりだと感じた。
匂い――それは単なる香りにとどまらず、紗奈の過去や心の中に隠された「真実」への手がかりだった。
次に訪れるのは、どんな謎だろうか。
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