お人好しアリーシャは、闇落ち宮廷魔道士を救いたい!
八掛 詩子
第1話 プロローグ
──乾いた土に雨が染みこむように、君でいっぱいになるには、時間はかからなかった…。
この国ヴァランは、聖女の祈りで支えられている。
国の境界には祈りの結界でささえられており、
その向こうには闇と闇に飲み込まれた魔獣の住む森にかこまれていた。
聖女は国の法律で15才になると神殿に集められ適正検査を受けさせられる。
聖杯を掲げ、少しでも聖力があれば、聖女になるため神殿に集められる。
それはこの国に住むものの義務であり、拒否することはできなかった。
その中でもアリーシャは、15才になる前、ある事件をきっかけに、わずか12才で聖女の力を覚醒させた。
その力はほかの聖女を遙かにしのぎ、神殿になくてはならない存在となった。
「今日の祈りは終わった?」
祈りを終え、既に退出した聖女達はおろか、
自分以外いるはずない祭壇で、
不意に聞こえた声に振り向く。
この神聖な場所に自由に入れる声の主は一人しかいない。
「また勝手に入ってきたの?エル…」
エルと呼ばれた青年は、黒いフードを深くかぶり、入り口からずかずかと入ってくる。
黒いフードの胸には宮廷魔術師である証の、竜をモチーフにした金の紋章が刺繍されていた。
「ちょっと!さすがの宮廷魔術師様でも、こう、何回も侵入して、バレたら危ないんじゃないの?!」
エルは慌てる私の言葉を無視して、
嗤う。
「ちょろいんだよ、神殿の警備は」
心底呆れたため息をつき、隣に立つ。
フードをおろし、露わになる彼の瞳は深く紅く、揺らめいた。
この世界で紅ければ紅いほど、魔力は強いと言われている。
エルは艶やかな黒髪に、陶器のような白い肌、烏のような黒いローブを着ている
そこから覗く深紅の瞳は余計に際立っていた。
宮廷魔術師になるには、莫大な魔力と、幾重にもある試験をうけてやっとなれる。
相当な努力と相当な才能がなければなれない。
しかし、ひとたびなれば、その家族が一生安泰といわれるほど、この国最高峰の職種である。
その立場を利用してか、魔法を駆使してかは、わからないが、この魔術師様はなんども侵入してくる。
「今日は何の用?」
「相変わらず聖女様は冷たいね。幼馴染みが遊びにきてるのに睨むなんて」
「…気楽にいうけど、ここは、神聖な…あ!もう祭壇に座らないで。だれかきたら」
エルは、祭壇であぐらをかき、喉の奥で嗤う。
「だれも来ないよ。みんな寝てもらってる。」
「んなっ、」
「アリーシャ、また痩せた?ちゃんと、たべてる?今日のお昼はサンドイッチだよ。」
どこからか出したサンドイッチを、口につっこまれる。
「んぐ、また!食べ物もってきて」
「美味しくない?」
エルは捨てられた子犬のように、うつむく
「…美味しいけど」
「けど?」
「美味しいです……」
私はエルの悲しい顔に弱い。
「よかった…」
あと笑顔にも弱い。
朝の祈りが終われば、聖女は夜の祈りまで自由だ。
ただ自由と言っても、神殿の外にはでれないけれども。
サンドイッチを食べ終える頃、
手を絡めとられる。
胸が鳴る。
「ちょっと、エル?今度はなに?」
「気晴らし」
祭壇の扉の前で、警護に当たってた人が幾人倒れている。
本当に眠らされてる…
その人達があとから叱咤されませんようにと願いながら、祭壇を後にする。
エルは私でも知らないような抜け道を使い、神殿の最上階にあたる部屋にたどり着く。
そこは物置のようになっていて、よくわからないものが、積まれ、埃をかぶっている。
「エル?こんなところに連れてきて何するの?」
エルか悪戯っ子のように笑い、さび付いた扉をあける。
「わぁっ…」
そこにはヴァラン国を一望できる、バルコニーのような場所だった。
「みて、今日は天気がいいから、この国の境界までみえる。君が祈りで支えてる結界も。」
頬をなでる風がきもちがいい。
青い空も、少し離れた所に建つ城も、一つの絵画のように煌めいていた。
「綺麗ね」
「アリーシャの犠牲の上でなりたってる、幻想の国だよ」
「そんな言い方……誇らしいわ。私たちの祈りで皆が笑顔になれたら」
「アリーシャは………」
幼馴染みがフードを深くかぶり、何かを呟くが、
私の耳には届かなかった。
「エルありがと。私を元気づけようとしてくれたんでしょ。嬉しい……とても…」
私の手を掴む、エルの手に力が入る。
……エル
ーーーー大好きだよ。
言葉にだすことは、許されない。
私は聖女はだから。
核に選ばれた聖女はその命がなくなるまで
祈りを捧げないといけない。
結婚も恋愛さえも禁止。
ただ純粋にこの、国の安寧を祈る。
でも想うだけなら…
そっと
エルの手を握りかえした…
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