凡人が【死亡強化】スキルを手にした結果、激重美女達に囚われた

あおぞら@『無限再生』9月13日頃発売!

第1話 凡人転生者に補正はない

「——君、本当に……なんて言うか……びっくりするくらい普通なんだね」


 俺が発動させた数々の魔法を眺めながら、魔法教師のルイーゼが何故か感心した様子でポツリと零すもんだから、反射的に言い返していた。


「俺の努力の結晶になんてこと言うんですか。それに……普通の何が悪いんです? 先生、あれですよ。普通ってある意味この世の平均ですよ? 普通って長所は少ないけど、汎ゆる場面で活躍できて弱点もない優秀な人間ですよ?」

「天才がやったら、負け無しの天下無敵な人間になるんだけどね。それに、仮に凡ゆる物に手を出すなら……凡人の方が時間かかるよ? 寧ろ凡人の方がそれぞれの練度にムラが出やすいかも?」


 …………。


 何よ、渾身の言い訳をノータイムで容赦なく叩き潰してきたんですけど。鬼畜かよ。

 いや、これは勝ち目のない戦いだった。ゲームで言う負けイベ。つまり俺は良く頑張った。


 とまぁ今の会話だけで分かる通り……。



 ——この世とは、実に無情だ。



 どんな場所でも、どんな分野でも。

 たった1つの例外を除きさえすれば——天才は優遇され、凡人は冷遇される。


 凡人はどれだけ努力をしたところで、努力をした天才には絶対に勝てない。

 なんなら、下手すれば一切努力していない天才にすら勝てないかもしれないという、中々に悲しい下振れさえある始末。


 そんな難易度ヘルモードのクソゲーこそ——俺達一人一人の人生だ。

 ログアウト不可能、タスクは大量に存在し、逃げることも停滞することも出来ない。


 まぁ死ねばログアウト出来るが……流石に自分を失っては意味がない。

 ゲームでセーブデータが全ロストしてクソ萎えるのと一緒だ。


 なんて、完全に脱線した考えに思考を乗っ取られていると、若過ぎる先生が不思議そうな口振りで尋ねて来た。


「いきなりぼーっとして、何を考えてるの?」

「この世界の格差について」


 丁度ほら。俺と、齢17で教師になったルイーゼ先生みたいな状況とかね。


 そもそもの話、この世はちょっと不公平が過ぎると思うのだ。

 故に先生に問いたい。


「——どうすればもう少しマシな世界になりますか? 俺が新世界の神にでもなれば良いんですかね?」

「思想強すぎないかな!? 先生、レドルト君の将来が心配だよ!?」


 どうやら某死神とノートの漫画の迷言はこの世界でもヤバいらしい。知ってた。


 因みに、今までの才能に対する俺の考えは、あくまで客観的な視点から見た世間の目の話をしているのであって。

 別に天才を憎んでいるとか、妬んでいるとか嫉んでいるとかでは断じてない——なんてことないに決まってんだろ。めっちゃ憎んで妬んで嫉んでる。

 ふむ、中々人間してるじゃん俺。負の側面だけど。


 何だ、天才には天才の悩みがある、だったか?

 あーあーやかましっ。隣の芝生は青く見えるって奴ね、はいはい。

 才能がある時点である程度人生勝ちゲーな奴の悩みとか知りたくもないね。


 とは言え、流石にそんなことを本気で思っているわけじゃない。

 天才とは、意外と周りにいるものだし、普通に信頼し合える仲間や友達にだってなれる。

 丁度目の前にいるルイーゼ先生のように。


 では、俺が一体何を言いたいのかと言うと。


 


 ——努力した天才に凡人が勝つ方法が、1つくらいあっても良いじゃないか。




 俺は、才能で諦めたくない。

 才能を言い訳に、負けを肯定したくない。


 そんな俺に。

 どうしようもない凡人で、転生者である俺——レドルト・キャリバーに、神は努力する天才すら越えられる可能性を秘めたスキルを授けてくれた。

 


 その名も——【死亡強化デマイス・アップグレード】。

 


 名前の通り、チートのようなクソスキル、クソゴミカススキルのような微チート。

 つまり、控えめに言ってクソスキルである。


 詳細を簡略化すると……死んだら、今回の死から前回の死までに受けたモノへと対抗するべく身体を作り替えアップグレードたり、対処法をアップデートしたりする系のスキル。


 ま、正味俺もまだ完全に理解してない。

 大まかに例えるなら、パソコンのOSのアップデートやらアップグレードを想像すれば良い。

 対処によって、アップデートアップグレードのどちらかが決まる……らしい。多分。きっと。


 そんな、中々に縛りも条件も多いこのスキルを貰って——俺は思った。



 ——このスキルを授けるとか、馬鹿かな? と。

 


 いや、貰った側が言っちゃいけないのは分かってる。

 この世には絶対的な才能に打ちのめされる人間が多くいるのだから、可能性があるだけ俺は間違いなく幸運なのだ。


 だが、断言しよう。

 命は特別とか人生は一度切りとか謳いながら、何度も死ぬことを前提としたスキルを与える神は——十中八九、大馬鹿者だ。


 あと、これは完全に余談だが、俺が数回死んだ内、一番最初に死んだのは——0歳の時の魔力切れである。 

 その瞬間、俺はただの転生者で、生粋の凡人であることを悟った。


 いやさ、転生者で一年……なんなら半年も経ってない内に死ぬ奴いる? しかも魔力切れ。

 どんなラノベ作品でも見たことも聞いたこともねーよ。


 なんて、あまりに不公平過ぎる転生秘話に思いを馳せていると。



「——レドルト君?」


  

 突然、視界の端に空の青に似た艶のある輝きが瞬いたと思ったら、眼前に迫るのは——神様が利き手で描いたかのような端整な顔と空色の瞳。

 ふっくらとした熱い果実のような唇が震える。


「えっと……きょ、今日もするの……?」

「もちろんです。先生、今日も頑張りましょう——」


 言いにくそうにする先生へと、俺はニヤッと胸を張って告げた。




「——赤点の補習を!!」

「もう1か月だよ!? 最後から2番目の子より1週間も長い君は、良い加減合格してくれないかな!?」




 えー、もう少し色々やりたかったんだけど……あっ、やめっ、魔法の準備はだめっ! 僕死んじゃうっ、消し炭になっちゃう!


 俺は魔法を準備するルイーゼ先生から大慌てで離れながら。


 ……ま、しゃーないか。ここらが潮時かな。


 ——その夜、とある部屋の浴室にて……黒髪黒目の少年——つまり俺は、自らの胸に短剣を刺して真っ赤な水溜りに伏した。





 ——この時の俺には、想像も出来なかった。


 まさかただの凡人のくせに色々な厄介事に巻き込まれ……。



「——逃しませんよ、レドルト」


「——逃がさないからね、レドルト君」


「——逃さないかんね、レドレド」


「——逃さないっス、レド先輩」



 ——美女達に囚われることになるなど。


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 新作です。

 相変わらずちょっとおかしい主人公あり、コメディーあり、シリアスあり、激重感情ありの物語です。 

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