第6話 ゼルの筋金
「何を買って帰りますか?」
「食材だよ。お金持ってる?」
「あ、はい。姫様の資産は私が預かっております」
金銭価値がいまいちわからんが、ゼルに任せておこう。
調味料は宿舎にあるらしいが、醤油と味噌というものはない。これでは塩ラーメンしか作れないではないか。それに米もないから牛丼も無理。牛皿でもいいが、ビールがないとな……
とりあえず、鶏肉は丸のまま買って、じゃがいも、小麦粉、レモン、炭酸水と買い込んだ。
「まだ買われますか?」
「カバンも買おうか」
と、リュックを購入してゼルに背負わせて寸胴鍋とかも買った。
宿舎に戻り、冷蔵庫を開けるとイチゴの匂いが充満する。
「なんでこんなにあるのさ?」
「毎日届きます」
げ……
「いらないんだけど」
「フルーツは高貴な者しか口にできない貴重な物です」
「レモンはフルーツじゃないの? さっき売ってたけど」
「あれは酸っぱいのでフルーツではありません」
この世界の基準は甘いか甘くないかなのだろうか?
「イチゴは普通に食べられないの?」
「はい、庶民には手が出ない値段でございますので」
「なら、その箱を持ってきて」
「何をなさるおつもりですか?」
「あげるんだよ。ゼルが食べるだけおいといて、他は全部誰かにあげる。おいといても腐るだろ?」
「しかし……」
「それか、いらないって断って」
「それはなりません。王族として……」
「本当にいらないんだって。毎日届くなら毎日なくさないとダメだろ?」
「姫様はイチゴがあんなにお好きでございましたのに……」
女の子ならそうかもしれんな。
「なぁ、毒って何に入ってたか分かるか?」
「いえ。毒ではないかと言われただけで本当に毒かどうかは」
「母親と同じ食事を食べて倒れたのか?」
「いえ、食事は別でございますので」
だろうな。
「呪いとかではない?」
「申し訳ございません。分かりかねます」
もし、毒なら俺の魂がシャルロッテの身体に入ったとしても、身体にダメージを受けてたはずだよな? 起きたときに吐いてスッキリはしたけど、その後に痺れるとかなかったし、毒ではないのか?
しかし本当に毒だとしたら、このイチゴを人にあげたらまずいかも。シャルロッテがイチゴ好きで食べてたらそこに仕込むよな?
「これに毒入ってる可能性はある?」
「それはございません。フルーツには神の力が宿っていますので、もし毒に侵されたらすぐにわかります」
「どうなるの?」
「変色して食べられなくなります」
「絶対大丈夫?」
「はい」
「なら、イチゴ尽くしの毒見とかなんだったんだ?」
「イチゴ以外のものを警戒したのです」
なるほど。
「じゃ、生のイチゴなら大丈夫なわけね」
「はい」
ということなので、庶民の食堂にイチゴの箱を持っていった。
「イチゴ食べたい人いる?」
と、聞いても誰も寄ってこない。仕方がないので注文するところへ行く。
「おばちゃん、イチゴ食べる?」
「そ、そのような高価な物は私達が食べられるような物では」
「そっか。なら捨てるしかないんだけど、ここのゴミと一緒に捨ててくれる?」
「す、捨てる? イチゴをですかっ」
「うん。毎日の様に届くんだけど、食べないから。捨てるのもったいないなとは思うんだけど、これ、すぐにダメになるだろ?」
「ほ、本当にお捨てになられるのでしょうか?」
「欲しい人って聞いても誰も取りにこないし」
「本当に頂いても宜しいのでしょうか?」
「おばちゃん達が食べてもいいし、料理のデザートとして出しあげてもいいけど」
「あ、ありがとうございます」
と、受け取ってもらえた。イチゴを育てた人も喜んで食べてくれる人の方がいいだろう。
そしてイチゴを渡して食堂から出ると、きゃーっと言う声と共におばちゃん達の所に生徒が群がっていた。欲しかったら取りにくれば良かったのに。
「なんだ、誰もいらないのかと思ったら、食べるんじゃん」
「庶民が貴族に声を掛けて来ることはありません」
「なんで?」
「身分が違うからです」
身分ってそこまで影響するのか。
「おばちゃんは話してたよ?」
「こちらから話し掛ければ答えはしますよ」
なるほどね。こちらから話し掛ければいいのか。
部屋に戻ってご飯というかラーメン作りに挑戦してみよう。
「ゼルはご飯作れるの?」
「はい、一通りは」
ということで、まずはジャガイモから。皮を剥いて細長に切ってもらう。
しゅるるるるっと鮮やかに皮を剥くゼル。
「凄いじゃん」
「ありがとうございます」
これで硬くなければ嫁にいけるのに。
「ゼルっていくつ?」
「二十歳になります」
「嫁にはいかないの?」
「私は姫様に一生お仕えすると誓いましたので」
「他の人が王様になって俺が追放されたらどうすんの?」
「もちろん付いて参ります」
そう言われてちょっとキュンとしてしまった。
「どうされました姫様?」
「いや、別に。あ、そのジャガイモ一部を残して冷凍しておいて」
「冷凍ですか?」
「そう」
これでいつでも揚げたてポテトが食えるな。
「次は鶏肉を丸のままずっと煮込んで」
と、これも手際が良い。
「次は麺作りだね」
ゲームで得た知識をゼルに伝えて、粉や他の材料混ぜてもらう。粉まみれになりながら作って、生地は寝かせるんだったな。
それからまたこねて、伸ばして畳んでと繰り返す。力があるからこういうの向いてるよね。
均一に切ってもらって一晩寝かせておこう。
「晩御飯はポテトだけだけど、ゼルは他になんか食べたいものあったら自分で作ってね」
「イチゴの料理は……」
「いらないって。いちごに練乳かけたくらいなら食べるけど」
「練乳?」
「牛乳と砂糖を煮詰めたものだよ」
そう言うと作り方を教えて欲しいと言うので教える。レムのお料理教室のバグ探しがこんなところで役立つとは。
完成した練乳が冷えるまで放置。
「粉まみれだし、先に風呂に入いろうか?」
「お背中流します」
と言われてお願いした。
一応、バスタオルを巻いてはいるが、ゼルは本当に女なのだろうか? 腕とか肩とか男みたいだ。
「念の為、もう一度聞くけど、本当に女だよね?」
「バスタオルを取りましょうか?」
いや、こんな明るい所で全裸を見たら流石に申し訳ない。ゲームの中の嫁も大事な所は見えないのだ。昨晩見たのも腹だけだったしな。
「ゼル、もし俺の中身が男だったらどうする?」
「また、ご冗談を。それに目覚められてからよく俺とおっしゃるのはこの冗談をおっしゃるためだったのですか?」
「もしも、もしもの話だよ」
「そうでございますね。だとすると全裸になるのはいささか恥ずかしくはありますね」
今は背中を流し終えて一緒に湯船に浸かっている。
「それだけ?」
「はい。もし、そうであったとしても姫様がバスタオルを取れとおっしゃるのなら取りますが」
「いや、大丈夫取らなくていい」
ゼルはシャルロッテに一途だった。
風呂から出て、ポテトを揚げてもらい、塩をパッパと振って、炭酸水にレモンを絞ってたものと食べる。
ポテトの味が思ってたのと違うのは油のせいだろうか?
「なかなかいけますね」
「ゼルはこれで足りるのか?」
「ハイ。姫様と同じ物を頂けるのは幸せです」
「他の従者はどうなの?」
「主人と従者が共に食事をすることはございません。姫様は私と食事をされるのをご希望なさっておられましたので」
そうか、俺はポテトやラーメンだけでいいけど、ゼルに付き合わせるのは良くないな。護衛任務もあるからちゃんと食べさせないと。
「ゼルはイチゴ料理は好きなのか?」
「姫様がお好きでござましたので」
「いや、ゼルの好き嫌いを聞いてるんだよ。鍛えててるなら肉とか欲しくなるだろ?」
「姫様と同じ物を頂けるのが幸せです」
こいつの姫様思いは筋金入りだな。しかし、ハンバーグとか旨そうに食ってたし、ちゃんとした食事を取らさないとまずいかも。
イチゴ料理の味はともかく、栄養的にはちゃんとしてたのかもしれん。シャルロッテのボディも成長途中だしな。
「ゼル、明日もう一度食材を買いに行こうか。肉とか買いに」
「はい」
その後、イチゴに練乳をかけて2つ食べた。ゼルはとても美味しそうにバクバク食ってた。こういうのを見るとゼルは女の子なんだなと思う。
その夜も当然の様に添い寝して来たけど、少し嫌ではなくなっていたシャルロッテなのであった。
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