【第六章 過去の清算】

 山の尾根を越えたその先に、唐突にそれは現れた。

 眼前に広がるのは、岩肌に半ば埋もれるように建てられた、灰白色の古代石造建築。

 苔むした外壁と風化した石柱が時代の古さを物語り、天に向かって裂けたかのようなアーチ型の門が、無言で彼らを迎えていた。

 「……ここが、遺跡……」

 リエルが、息を呑むように呟く。

 入口の周囲には風が吹き抜け、森とは異なる乾いた匂いが漂っていた。

 石畳の割れ目には小さな草が生い茂り、長年人の手が入っていないことを物語っている。

 ベルンが前に進み出て、門の前で足を止めた。

 「……ここだ。間違いない。あの時と、何も変わっちゃいねぇ……」

 その声には懐かしさと緊張、そしてほんの少しの覚悟が滲んでいた。

 学は遺跡全体を見渡しながら、ふとつぶやく。

 「構造が……自然石と人工加工の混在か。装飾にも魔術的な意匠が使われてるみたいだな」

 アリアがホログラムで、壁面の刻印を投影する。

 『この遺跡には、古代魔導文明の影響が確認されます。封印術・元素制御・対外干渉……複数の分野にまたがる高度な技術の痕跡です』

 「それって、危険ってこと……?」

 リエルがやや不安げに尋ねると、アリアは一瞬沈黙し、やわらかな口調で答えた。

 『危険性の有無は内部進入後の調査が必要です。現段階では明確な異常反応はありません』

 「……そうか。じゃあ、進むしかないな」

 学がそう言って、一歩、遺跡の門へと足を踏み出す。

 その瞬間──

 「……っ」

 リエルが思わず眉をひそめ、こめかみに手を当てた。

 「どうした、リエル?」

 「ううん……なんか、変な感覚が……。頭が重くて……目の奥が、ちょっと痛い感じ」

 「無理しないで、今日はここで一度休むか?」

 リエルは首を横に振る。

 「大丈夫。まだ歩けるし……たぶん、緊張してるだけ」

 「……わかった。でも、様子はちゃんと見ておこう。アリア、リエルのバイタルチェック頼む」

 『承知しました。軽度の反応ですが、異常波形の傾向が見られます。定期的に監視を継続します』

 ベルンはリエルを一瞥し、何か思いかけたが、すぐに視線を前へ戻した。

 「……気をつけろよ。ここは何があってもおかしくねぇ」

 そして三人は、遺跡の静かな門をくぐり──

 光の落ちたその奥、長く続く石の回廊へと、足を踏み入れていった。

 遺跡の内部は、思った以上に広大だった。

 天井は高く、石造りのアーチが続く回廊の奥には、自然光の届かない暗闇が静かに横たわっている。

 足元には風化したタイルが敷き詰められ、ところどころに崩れた壁や瓦礫が積もっていた。

 「……空気が、重いな」

 学がつぶやいたとおり、外とは明らかに違う気圧感。

 息苦しさと、微かなざわつきのような気配が肌を撫でる。

 「アリア、換気か何かの影響か?」

 『外気との密閉率が高いため、自然な空気循環はほとんど行われていません。ただし──』

 アリアのホログラムがふわりと揺れ、緊張を帯びた声で続けた。

 『現在、内部の空間において“魔素濃度”が急激に上昇しています』

 「魔素……?」

 『はい。通常の自然環境に比べ、局所的に10〜12倍の濃度を検出。特に、周囲に魔力適性を持つ存在がいる場合、体内への吸収が加速する可能性があります』

 「──!」

 その瞬間、リエルがよろけた。

 「リエル!」

 「……ご、ごめん、急に……目眩が……」

 リエルは壁に手をついて立ち止まり、肩で浅く息をしながら顔をしかめている。

 『リエル様の呼吸・心拍に乱れが発生しています。これは魔素中毒の初期症状と一致します』

 「中毒……!?」

 『魔素は本来、体にとって有益なエネルギー源です。しかし極端に濃縮された環境では、魔術適性の高い者ほど、過剰摂取によって体調に異常をきたす危険があります』

 学は瞬時に反応した。

 「アリア、対処法はあるか?」

 『マイホームの環境制御スキルを転用し、簡易的な“魔素障壁”を形成できます。対象周囲にフィルターを展開し、濃度を調整します』

 「リエルの周りに展開してくれ!」

 『展開します──フィルター稼働、魔素流入抑制開始』

 ふわりと光の膜がリエルの周囲を包む。呼吸が徐々に落ち着き、目の焦点が戻ってきた。

 「……ありがとう、アリア。ちょっと楽になった……」

 ベルンが、その様子を黙って見つめていた。

 「……そういうことだったのか」

 学がベルンに目を向ける。

 「……?」

 「俺の仲間で、最初に倒れたのは──ディアナ。魔術師だった。

 あいつだけ、ほとんど兆候もなく……急に、崩れるように倒れた。息が、苦しいって……」

 リエルが静かにベルンを見つめる。

 「もしかして、あのとき……すでにこの遺跡が“魔素を漏らしてたんじゃ……」

 アリアがホログラムで遺跡全体の構造と濃度の偏りを示す。

 『おそらく、遺跡内部には“魔素生成”もしくは“魔素蓄積”の機能を持つ存在があると推測されます。

 この濃度は自然現象では説明できません』

 ベルンの拳が、静かに震えていた。

 「そうか……そういうことだったのかよ……」

 魔素濃度の異常が検出されたことで、三人は遺跡の深部へと警戒を強めながら進んでいた。

 回廊は曲がりくねり、ところどころ崩落して通れない部分も多い。

 だがアリアの立体投影によって、比較的安定したルートが常に確保されている。

 やがて、空間が開けた。

 そこはかつて祭壇だったのか、あるいは研究施設のような場所だったのか──

 半球状のドーム天井に、複雑な魔法陣と円環状の彫刻が刻まれていた。

 「……ここ、だけ空気が違う」

 リエルが眉をひそめた。

 アリアのホログラムが警告色に切り替わる。

 『この空間の中心部より、異常な魔素波動を感知。警戒レベルを引き上げます』

 中央には、球状の装置のようなものがあった。

 ひび割れた外殻から淡い蒼色の光が漏れ出し、周囲の空気を脈打つように揺らしている。

 「魔素の発生源か?」

 『可能性は高いです。装置自体が稼働状態にあり、周囲の魔素密度を制御しているようです』

 学が近づこうとすると、ベルンが一歩、前に出た。

 「待て。……そのまま近づくのは危険だ」

 その声は、鋭いが、どこか震えていた。

 「この空気……あの時と、同じだ。ここから先で……ディアナたちは……」

 拳を握りしめたまま、ベルンは装置をにらみつける。

 「やっとだ。ずっと見えなかった“敵”が、ようやく姿を見せた……」

 学が横目でベルンを見やり、ゆっくりと頷いた。

 「……アリア、装置の構造は? 破壊可能か?」

 『中核部への直接干渉が有効です。ただし、過剰反応による魔素暴走のリスクがあります。解除には物理破壊よりも、遮断・封印系の制御が有効です』

 リエルが小さく手を挙げた。

 「わたしの魔法……使えるかな?」

 「使えるかじゃない。──使ってみよう。アリアが制御サポートを」

 『了解。封印魔法の定義式を解析、リエル様の魔力波形に合わせて最適化します』

 ベルンが剣をゆっくり抜いた。

 その視線は、ただ一点──装置の中心をまっすぐに見据えていた。

 「これで終わらせる。──ようやく、けじめをつけられるんだ」

 遺跡の奥。

 半球状の広間にたどり着いた三人は、中央に鎮座する古代の装置を前に立ち止まった。

 「これが……魔素の発生源か?」

 中央に浮かぶ球体の装置は、ところどころに亀裂が入り、蒼い光を脈打つように漏らしている。

 まるで“呼吸”しているかのように、空間の空気が波打っていた。

 『構造解析完了。古代魔導文明の魔素制御装置と推定されます。暴走により魔素の拡散制御が失われ、現在も発生し続けています』

 アリアが投影したホログラムには、装置を中心に渦巻く魔素の流れが示されていた。

 「封印できそうか?」と学。

 『可能です。リエル様の魔力波形と連携し、封印陣を再構成すれば制御可能です。ただし、作業には数分を要します』

 リエルは緊張した面持ちで頷き、両手を掲げる。

 「魔法陣……展開します!」

 アリアの補助のもと、封印構築が始まる──その時。

 『警告。空間内に未確認魔素波動を感知。付近に異常存在の接近反応』

 アリアの声が鋭く変わった。

 直後、奥の暗がりから重く鋭い羽音が響き──

 天井近くの闇から、有翼の魔獣が飛び出してきた。

 全身を黒い鱗に覆い、蛇のように光る目。

 翼の間からは濃い魔素が絶えず溢れ出していた。

 「こんな魔獣、見たことねえぞ!」

 ベルンが思わず声を上げる。

 「……魔素に引き寄せられた“変異体”ってとこか」

 学がスタンロッドを構えた。

 「リエル、その装置から離れろ!」

 リエルが即座に跳び退き、三人は横一列に構える。

 魔獣は咆哮と共に急降下、三人をなぎ払うように滑空してくる。

 「くっ!」

 ベルンが剣を振るうが、魔獣は直前で翼を反転させ、再び上昇。

 その素早さに、攻撃はまったく届かない。

 「なら──!」

 リエルが氷結魔法を撃つも、回避されるどころか風圧で霧散させられる。

 学も機転を利かせ、閃光弾を仕掛けようとするが、投擲の瞬間に翼の一撃で弾かれた。

 「ちょっと……無理じゃない……!?」

 焦るリエル。ベルンも汗をにじませながら低く唸る。

 「動きが早すぎる。攻撃が届かねぇ!」

 それでも攻撃を重ねる三人。

 学は隙を見て、魔獣の肩を狙ってスタンロッドを突き出した。

 「っ──!」

 刃が鱗に当たった瞬間、硬質な手応えが返る。

 分厚い鱗に弾かれ、刃はわずかに滑っただけだった。

 電撃は届いたものの、魔獣の反応は鈍く、効いている様子はない。

 「……ダメだ、表面が固すぎる!」

 ベルンの斬撃がようやく鱗の一部をかすめたが、それも数秒で元通りになる。

 「……再生してる……!?」

 リエルが息を呑む。

 鱗の裂け目がじわじわと閉じ、数秒で完全に復元されていた。

 「こりゃ、埒があかねぇ……!」

 ベルンが苦々しく吐き捨てる。

 学がアリアに叫ぶ。

 「アリア、あの再生能力……なんとかできねぇのか?」

 『再生能力は、魔素過剰摂取による生体変異の結果です。

 魔素を遮断すれば、再生を抑制できる可能性があります』

 「魔素を遮断……できるのか?」

 『先ほどリエル様に使用した“魔素障壁”の応用で、魔素吸収の遮断が可能です。ただし、展開には対象を一定時間、同一位置に固定する必要があります』

 「よし、だったら──!」

 学が腰のバッグから高輝度LEDランタンを取り出した。

 「夜目が利くなら、強光で目くらまししてやる!」

 ランタンのスイッチを入れ、魔獣の進行方向に投げる。

 閃光が遺跡内に炸裂し、魔獣が悲鳴を上げて飛行軌道を乱した。

 「今だ、リエル!」

 リエルが氷結魔法を放ち、魔獣の動きが一瞬鈍る。

 「よっしゃ──!」

 学が固定杭を地面に突き立て、魔獣の翼を貫いた。

 鱗を砕き、地面へ縫い留める。

 「アリア、今!」

 『対象捕捉──魔素障壁展開、遮断モード開始』

 魔獣の上に光のフィルターが展開され、傷口の再生が止まる。

 「……再生、止まった!」

 ベルンが剣を構える。

 「──これが、“あの時”の答えだ!」

 地を蹴り、一閃。

 剣が魔獣の首を斬り裂き、その身体が崩れ落ちる。

 ようやく訪れた静寂の中で、アリアの声が響いた。

 『妨害反応の消失を確認。封印処理、実行可能です』

 学が息を整えながらリエルに目を向ける。

 「リエル、頼めるか?」

 「うん、やってみる!」

 魔獣が倒れたことで再び近づけるようになった装置。

 リエルが再び魔法陣を展開し、アリアが封印制御を補助する。

 封印術式が発動し、蒼く暴走していた光が静かに収束していく。

 『封印処理、完了。魔素濃度、安定状態へ移行しました』

 重く淀んでいた空気が、ふっと和らぐ。

 ベルンは魔獣の亡骸を見つめ、低く呟いた。

 「……その装置とこの魔獣が、“あの時の原因”だったんだな……」

 リエルがそっと隣に立つ。

 「ベルンさん……」

 「理由も分からず死んでった仲間たちに……ようやく“報告”できる気がするよ。

 ……もう俺たちみたいな犠牲者は出ないぜ…ってな」

 学がふっと笑う。

 「理不尽なもんにも……知識で通じることもあるんだな」

 リエルも、小さく頷いた。

 魔素障壁による封印が完了し、遺跡の空気はどこか静まり返っていた。

 「……無事に済んだな」

 学が背中を伸ばし、ほっと息を吐く。

 ベルンは祭壇の残骸を見つめたまま、何も言わずに頷いた。

 リエルが少しはにかむように笑って言った。

 「でも、まだ下山しなきゃ……山を降りるのも時間かかるんだよね?」

 それを聞いて、学が軽く指を立てる。

 「山頂付近は魔素の濃度も安定してきたし、順応も終わった。これ以上ここにいる理由もないしな。……アリア、ゲートいけるか?」

 『はい。本日地点での魔素濃度は安定、環境干渉も最小限です。ゲート使用は可能です』

 「よし──じゃあ、一気に帰るぞ」

 戸惑うベルンに向かって、学が手を差し伸べた。

 「ちょっとびっくりするかもしれないけど、ついてきて」

 アリアが展開したゲートマーカーから、光の楕円形が音もなく浮かび上がる。

 まるで水面に満月を浮かべたような淡い光が波打ち、やがて奥に景色が映し出された。

 そこに見えたのは──異世界のどこにも存在しない、整然とした“玄関”。

 石造りでも木組みでもない、どこか滑らかで清潔感に満ちた外壁。

 ドアは金属のようでいて無骨さがなく、取っ手も見たことのない形状をしていた。

 自動で点灯した照明が、穏やかなオレンジ色の光を足元に落とす。

 ベルンはその光景に思わず足を止める。

 「な……なんだ、これ……? 魔導建築か? いや、違う……構造が……全然違う……」

 まるで整備された神殿か、王家の隠れ家のような印象。

 だが、どこか懐かしく、温かみのある空気が、ゲート越しにさえ伝わってくる。

 彼が口を開いたまま呆然としているうちに、学とリエルは慣れた様子でその異空間へと入っていった。

 「ようこそ、マイホームへ」

 夕食

 リビングのドアが自動で開き、温かくやわらかな光が室内に広がる。

 テーブルには、湯気の立ち上るスープ、こんがり焼き上げられたハーブチキンのロースト、皮がカリカリのポテトと野菜のグリル、ふんわりとした白パン、そして琥珀色の甘酸っぱい果実酒ゼリーが並んでいた。

 「……なんだ、これ……王都の高級旅亭の宴席か……?」

 ベルンは目を見開いたまま、焼きたてのチキンにナイフを入れる。

 香ばしい皮の下から、じゅわっと肉汁が溢れた。

 「……嘘だろ、肉の繊維が……箸でもほぐれそうな……」

 恐る恐る一口食べた瞬間、彼の目が見開かれた。

 「……う、旨味ってのが、押し寄せてくる……香草の香りが鼻を抜けて……これ、本当に焼いただけか……?」

 リエルが微笑む。

 「低温調理って言って、アリアが内部温度をコントロールして焼いてるんです。肉が固くならないように」

 『焦げや乾燥を防ぐため、三段階調整を行っています』

 「も、もはや……料理ってより、錬金術じゃねえか……!」

 学が笑ってグラスを差し出す。

 「で、これが……焼酎。転移前に家に置いてあったやつだけど、まだ残っててな。冷やしてあるから、飲みやすいはずだ」

 「お、おう……」

 ベルンがごくりと飲み、そのまましばらく味わうように口の中で転がした。

 そして、ぷはぁっと息を吐いた。

 「くぅ……くそ、うめぇ……! なんなんだ、これは……!」

 グラスを持った手をじっと見つめるベルン。

 視線がどこか遠くを見ていた。

 「普段、酒場で飲んでるのなんて──味が濁ってて、すぐ悪酔いする粗い蒸留酒か、ブドウか麦の水みてぇなやつばっかでさ……。たまに香りの強いやつがあると、それだけで贅沢って言われるくらいなんだ」

 もう一口、焼酎を飲み、目を閉じる。

 「これは……雑味がねぇ。滑らかで、飲んだあと喉の奥でふわっと香る……こんな酒があるなんて、知らなかった……」

 アリアのホログラムがふわりと現れ、微笑むように告げる。

 『ベルン様の感動指数が上昇しています。酒類の比較経験値が更新されました』

 「そりゃ、感動もするわ……まじで、天国かよ、ここは……」

 風呂

 食後、アリアが静かに案内を告げる。

 『マスター、皆様。入浴の準備が整っております』

 ベルンは最初、何を言われているのか分からなかった。

 案内された先──それは洗い場と湯船が別々に設けられた、信じがたいほど清潔な空間だった。

 「う、嘘だろ……ここ、湯殿じゃなくて……なんだ、これ……?」

 照明は柔らかく、床はひんやりせず、洗い場には何種類もの香りのする液体容器。

 浴槽にはあらかじめ張られたお湯が、絶妙な温度を保って湯気を立てていた。

 「これ、勝手に温度調整されてて、湯が冷めないんだ」

 「湯が……冷めない!? 魔道具じゃないのか……!? どうなってるんだよ……」

 ベルンは湯に浸かったまま、しばらく黙って目を閉じていた。

 そして、一言。

 「……俺、もう街に帰れねぇかもしれねぇ……」

 ノルグレアの街に戻ってきた三人は、冒険者ギルドへと足を運んだ。

 受付にいたのは、いつものミナ・エルダイン。

 「おかえりなさいませ! えっ、まさか……もう戻られたんですか!?」

 ミナの驚きも無理はない。遺跡の調査クエストは、通常なら一週間以上の行程となるのが普通だ。

 「ちょっと事情があってな。報告しておきたいことがあるんだ」

 ギルド内の作戦室に通され、学はアリアの補助を受けながら、詳細な報告を行った。

 封印されていた魔素装置、変異した魔獣の出現、濃度異常による高山病のような症状──

 それらの証拠として、現地の環境データ、魔素濃度のグラフ、変異部位の映像記録などがアリエルから提示された。

 ミナは真剣な表情でそれらを確認していく。

 「……この報告内容、すぐにでも王都の本部へ提出します。誤査定の可能性、非常に高いですね」

 「それと……一応、依頼は完了でいいのか?」

 「はい。発端の原因を突き止め、封印措置まで完了していますし……なにより、現地での高濃度魔素の減少が観測されているなら、これ以上の安全確保は困難です」

 書類にサインを終えたミナが、ふっと微笑む。

 「お疲れ様でした、マナさん、リエルさん。それに……ベルンさんも」

 「……ああ、俺も一応メンバーだったな」

 照れくさそうに頭をかいたベルンだったが、その表情にはどこか晴れやかな余韻が残っていた。

 数日後──マイホームにて

 それからというもの、ベルンはなぜか頻繁にマイホームを訪れるようになった。

 最初のうちは、「ちょっと様子を見に来ただけだ」などと言っていたが──

 その割に手にはしっかりと獣肉や山菜、時には珍しい香草や調味料なんかを抱えていて、次第にその訪問は“週に何度か”から“気づけば隔日”へと変わっていった。

 「今日はちょっと、いいカモが獲れたからな。ちょっと分けてやろうかと思ってよ」

 「この間の煮込み、忘れられなくてな……別に、飯が目当てってわけじゃねえけど」

 「ほら、あの風呂。もうちょっと熱めに設定できるかって、アリアに聞いてもいいか?」

 そんな調子で、最初は一歩引いていたベルンも、今やマイホームのテーブルに自然と座り、湯に浸かる時間すら“日課”のようになっていた。

 「いや、あれだ。肉、腐らせたくねぇしな。どうせならうまく食ってもらった方が……」

 言い訳めいたその口ぶりのあとに出てくるのは、決まってアリアの完璧な調理と、冷えた酒。

 「くぅ……やっぱ、ここの飯と風呂は異常だわ……」

 マイホームのソファでくつろぎながら、焼酎をちびちびと飲むベルン。

 彼の常連化は、誰の目にも明らかだった。

 酒の減りと、新たな課題

 「アリア、焼酎の残量って、あとどのくらい?」

 ある夜、学がふと思い立って尋ねた。

 『現在庫、およそ残り1.3リットル。消費速度を加味すると──ベルン様の頻度を維持した場合、あと4日で枯渇します』

 「……リアルな数字出してくんな」

 「えっ、そんなになくなってるんですか!?」

 驚くリエルをよそに、ベルンがグラスをくるくると回しながら、ぼそっと言った。

 「……ま、そりゃあ飲んでるからな。うまい酒を前に節約なんて、無理な相談だぜ」

 「だよなぁ……」

 学は腕を組んでうなった。

 「そろそろ、本気で“自分たちで作る”方法を考えないとダメかもな」

 学のそのひと言を皮切りに、マイホームのキッチンでは突如として“酒造り計画会議”が始まった。

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